〜 木曜日・補習 〜-1
〜 33番の木曜日 ・ 補習 〜
半ば思考はぼやけたまま。 クラスでHRを終えた後、私達3人は、教官にされるがまま、首輪にリードを繋がれて、四つん這いになって廊下を進んでいた。
廊下、階段、渡り廊下。 先頭は教官の足許から離れない21番。 涙で赤く瞼を腫らし、時折ヨタつくものの、手足を伸ばしてピタリと寄り添っている。 これから罰に等しい仕打ちを受けるというのに、歯を喰いしばって教官の指示に従う姿は、滑稽でもありいじらしくもあった。 続いてクラス委員長、22番。 手も足もまっすぐ伸ばし、腰を高く浮かせながら21番についてゆく。 小ぶりな乳房の揺れすらも這う動きにあっているようで、1つ1つの動作が落ち着いているように見えた。 勿論瞳は赤く充血して、自慰と諦観で窶(やつ)れている。 ただ、不自然で無様な恰好のまま、堂々と四つん這いで進む彼女からは、哀れというより一種の凛々しさが滲んでいる。
一方、最後尾を進む私。 何も考えず、目の前にある濡れそぼった22番の持ち物を伏し目がちに眺めながら、黙って這う。 これから補習を受ける、という実感は不思議なくらい湧いてこなかった。 ただ、掌に触れるリノリウムの床が、無性に冷たくてざらついていた。
A棟に入り、階段を上る。 『MR(モニタールーム)』の向かい側。 『講習室』のプレート。
立ち止まることもなく、気負いを全くみせることなく、2号教官がドアを開いた。 私たち3人――いや、二足歩行を許されない、縄で繋がれた裸の3匹――も中に続いた。
入口には背が低く小柄な、それでいて横柄そうに赤縁眼鏡をかけた女性がいた。 年齢はいくつくらいだろう。 2号教官よりは年配に見える。
「あらあ。 誰かと思えば『2号』ちゃんじゃない」
「今日の担当は貴方でしたか」
「知ってて来たんじゃなかったの? 2回目の指導、しかも3人とは恐れ入るわ」
「指導の徹底を依頼するだけです。 特別なことをしているつもりはありませんよ、【補号】」
「初日に続いて、もう次の補習をだしにきちゃったわけだし、これは立派な指導不徹底よ。 それなりの覚悟は出来てるんでしょうねえ」
【補号】と呼ばれた女性は、椅子に腰かけたまま、眼鏡をクイと支える。 下から上目遣いに2号教官を見上げる様子を、私は床に這いつくばったまま眺める。
「教員にも特別指導があることくらい、いくら新人でも分かってるんじゃないの?」
「……そういう話ですが、できれば生徒の前では控えて欲しいのですが」
「ま、それはそうだけど、随分落ち着いてるわね、2号ちゃん?」
「大したことはありませんから」
「まあた強がっちゃって……可愛くない子。 で、このコたちをどうすればいいのかしら」
【補号】と呼ばれた女性と視線があった。 彼女の私達を見る瞳も、2号教官と同じ、感情が全く籠らない、道端の石ころを眺める眼だ。
「プログラムCでお願いします。 明日の講義に間に合うよう、補習後に寮まで搬送してください。 栄養その他については、配慮をよろしくお願いします」
「OK。 ただし、ギブアップしちゃった場合は知らないわよ。 搬送も何も『終わっちゃった』時は関係ないしね」
「その時は一報いただければ有難いです。 私は例の部屋に寄ってから職員寮へ戻ります」
「例の部屋……ああ、あそこね。 教員用の懲罰室よね♪」
「ですから、その話は止めて欲しいと……」
「いってらっしゃい♪ 後で懲罰記録をじっくり見せてもらうわ」
「……失礼します。 名札はここに置きますので」
クルリ。 私たちの首輪から伸びた縄を【補号】に渡し、2号教官は踵を返して部屋をでる。
ギィ、バタン。 途端に静寂が訪れた。