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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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理由-1

 仕事帰りにヒロキくんと待ち合わせをしてデパートへ行き、ペアリングを購入した。

 裏側にお互いの名前を彫ってもらい、それぞれ左手の薬指にはめた。
 流麗なひねりのラインが、指を綺麗に見せてくれるデザイン。
 ヒロキくんのリングはシンプルに、わたしのリングはラインに沿うように大きさの違うダイヤモンドが五つ輝いている。

「これでまたひとつ、沙保さんと僕を結びつけるものができた」

 ヒロキくんが満足そうに指輪を撫でて言った。
 節の目立たない、綺麗な指。
 繊細な印象の指輪がとてもよく似合っていた。

 無事大学を卒業したヒロキくんに、お祝いのプレゼントは何が良いか尋ねると即答でペアリングと返ってきた。
 沙保さんが僕の指輪を、僕が沙保さんの指輪を、と。

 お祝いなのだからわたしがふたつとも買うよと言ったのに、彼は絶対に沙保さんの分は自分が買うと言い張った。

 結局わたしが根負けし、お互いの指輪をお互いが購入し交換するというかたちに落ち着いた。
 店頭でふたりで選び、納得のいくデザインのものを購入した。

「あとでアップする用に、ふたりの指輪がうつるように写真を撮ってもいい?」
「うん、あとでね」

 わたしはそう言うと、切り分けたハンバーグをくちに運んだ。
 肉汁がくちの中でじゅわっと広がる。

 わたしたちは指輪を購入したデパートの近くにあるハンバーグやステーキがメインのレストランで夕食をとっていた。

 レンガ造りのアメリカンカントリーな雰囲気のレストランは、わたしたちを含めて五組のお客さんで賑わっていた。

 この奥の席の壁には額に入った果物やどこか外国の市場の絵、ローカル番組のグルメロケの様子が撮影された写真が飾ってあり、わたしの斜め後ろには大きな葉を広げたオーガスタが置いてある。

 ハンバーグはジューシーでおいしく、にんじんのグラッセやブロッコリーはほんのり甘くて懐かしい味がした。
 セットの焼きたてのパンは食べ放題で、中でもバジルの効いた丸いパンがハンバーグのソースに合ってとてもおいしい。
 ナッツの入ったサラダの葉物野菜はシャキシャキとしていて瑞々しく、ビーフコンソメのスープは思ったよりあっさりとしていて飲みやすかった。

「指輪って、いいね」

 ヒロキくんがわたしの手元を見ながら微笑んで言った。
 いかにも僕の女って感じがするじゃない? と。
 ダイヤモンドが店内の光を受けてキラキラと輝く。まるで、ヒロキくんの瞳のように。

「前の彼氏とも指輪をしてた?」
「ううん、あいつがなくしちゃうからって言って買わなかった」
「そうだったんだ、なくすなんてありえない」

 ヒロキくんが外国の方々がよくやるような、肩をすくめるような仕草をして言った。

 わたしは、あいつはそういうやつだったのよねと苦笑した。
 忘れ物が多く、遠出をする際は必ず彼が家を出る前に電話をして確認することが必要だった。

 今はその役目を菜里香がしているのだろうかとわたしは思った。
 菜里香は少々短気なところがあるから、ストレスになっていなければいいのだけれど、とも。

 そして、そんなふうに考えている自分に驚いた。
 あんなに酷いことを言われ、されたのに。


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