Scene 7-1
目の前に並んだワインと料理は、この前のようには香織の心を浮き立たせなかった。
「どうした、具合でも悪いのか?手もつけずに。さ、遠慮せずに食べなさい。変な薬なんか入ってないから。」
促されて、香織はナイフとフォークを手に取り小さな肉片を口に入れた。
「あの動画、何なんですか…?」
「きみと、俺だ。」
「どうやって…。」
「どう思った?あれ見て。」
「どうって…。ひどいと思います…。」
「ひどいだけ?ほんとうの自分の姿を見て。」
テーブル越しに、部長の視線が絡みついてくる。
「ほんとうの私じゃありません。」
「なぜ、そう言える。」
「なぜって…。私はあんなじゃ…。」
「まあいい、じゃ、行こうか。」
ワイングラスを空け、部長が立ち上がる。
「え…、いえ…私は…。」
「どんな顔するかな、柳本…あの動画見たら…。」
薄い笑いを浮かべ、部長が私を見おろしている。
エレベーターの扉が閉まると、部長の手が私の腰に触れる。
「よく似合う、このスカート。あの店の雰囲気にも、よく合っていた。」
トクン…。
私の耳元に低い声をかけながら、部長の手がスカートの上を滑り降りていく。
いや…いや……いや…。
スカートの上からお尻を撫でられながら、じっと前を向いている。
あの動画を見せられた康介に、私はなんと説明したらいいのだろう。
自分でさえ、なにが起こったのか理解できていないというのに。
エレベーターの扉が開き、後ろから腰に手を当てられたままホテルの廊下を歩く。
部長の手が、部屋のドアを開く。
「どうした。ほら、入りなさい。」
背中を押され、部屋の中に足を踏み込む。
ガチャリ…
後ろでドアが閉まる音が聞こえる。
なぜ、来たんだろう。
なぜ。
なぜ。
「どうした、そんなとこに突っ立って。服を脱ぎなさい。」
「私…帰ります…。」
ドアの取っ手を掴もうとした手を、部長の手に掴まれる。
ベッドまで引きずられ、押し倒される。
「聞き分けの悪い子だ。」
うつ伏せに倒れたまま背中を押さえつけられ、スカートをまくられる。
「いやっ…。」
ストッキングとパンティを引きずり下ろされる。
「いやですっ…。」
もがいても、強い力で押さえつけられ、逃げられない。
強い者に捕食される定の、はかない者達。
バシッ…
剥き出しにされたお尻に、部長が手を振り下ろす。
「っ…。」
悪いことをした子供が、罰を与えられているみたいな格好で。
恥ずかしさと惨めさが入り交じった感情が、逃げようともがく手足から急速に力を奪っていく。
バシィッ…
「くっ…。」
無言で私に罰を与える部長。
聞き分けの悪かった私に。
唇を噛み締めて、与えられる痛みに耐える。
なんとか声を漏らさないように。
バシッ…
「うっ…。」
剥き出しの肌が火のように熱い。
肌のひりつきを鎮めるように、部長の手が優しくお尻を撫でている。
バシィッ…
「あっ…。」
背をのけぞらせ、ついに耐えきれずに声を漏らしてしまう。
私のお尻全体に、まんべんなく部長の手が振り下ろされていく。
バシッ…
「あぁっ…。」
私の肌に触れる部長の手が火のように熱い。
もう私の肌は痛みと熱さを選り分けることができない。
痛い…熱い…苦しい…
バシッ…
「うぅっ…。」
服を着たまま、赤い尻だけを剥き出しにされている私。
私のお尻をぶつ部長の大きな手。
そんなに私悪いことしたの?
ぎゅっとつぶった両目から、涙が流れる。
バシッ…
「あぁぁ…。」
もう何度ぶたれたか分からなくなった頃、やっと部長の手が私のお尻から離れる。
「いや…ぁ…っ…。」
お尻を離れた手が後ろから差し込まれ、指を入れられる。
私の身体の中を確かめる様に動く部長の指を、私の体液が濡らしているのに、気づく。
「いや…やめて…。」
「尻叩かれて、なんで濡らしてるんだ?」
そんなこと、自分でも分からない…
自分でも分からないし、認めたくない…
後ろから笑いを含んだ声をかけられて、私は大きくかぶりを振って否定する。
「んっ…いや…。」
滑らかに私の身体に出入りする1本の指に、認められない現実を突きつけられる。
部長の指が、新しい感情を呼び覚ます。
哀しみと、諦めと。
小さな自分を脱ぎ捨てて、強い者に身体を差し出す恍惚と。
指を抜かれると、心細さを感じる。
知らない場所に一人で放置されたみたいな。