Scene 2-1
突然降り始めた激しい雨は一向に止む気配がなく、地下鉄から吐き出されてきた他の乗客達と一緒に、香織は駅の出口で足止めされていた。
今日は1日晴れの予報だったのに。
大粒の雨が勢いよくアスファルトに跳ねるのを見ながら、小さくため息をついたとき、目の前に1台の外車が止まり、助手席の窓が降りた。
「見たような子だと思ったら、やっぱり芹沢君か。」
「部長…。」
「送っていこう、乗りなさい。」
一瞬ためらったが、この状況で断るのも変な感じだし、香織は車の助手席に身体を滑り込ませた。
「すいません…。」
バッグからハンカチを取り出し、顔や手に当てながら小さく頭を下げる。
「それにしても凄い雨だね。たまたま通りかかってよかった。」
「ほんと、地下鉄に乗る前は晴れてたのに、変な天気…。あ、ワインありがとうございました。とてもおいしかったです。」
「それはよかった。今日はこれから予定は?」
「いえ、特には…。」
「食事でも行こうか。ワイン好きなら、いい店教えてあげるから。」
「え、あの…。」
食事会は3人で、と言う間もなく、車が走り出す。
「これまでの慰労も兼ねて、ごちそうするよ。」
頭の中で断りの理由を探すうちに話が勝手に進んでしまい、言葉を返すタイミングを失ってしまった。