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青い涙
【女性向け 官能小説】

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青い涙-4

 バスタオルを手に、浴室へ向かう。
 こういうところはクレンジングオイルなどのアメニティがしっかり用意されているのがありがたい。

 手早くシャワーを浴びて、髪を乾かす。
 バスタオルを巻いたまま浴室から出ると、ハルくんはソファに座ってテレビを見ていた。

「何見てるの?」
「あ、お疲れさま。──って、バスタオルだけじゃん! 風邪ひくよ! バスローブがあったよね、──あったあった。ほら、これ着て」

 ハルくんがわたしの肩にバスローブをかけてくれる。顔を真っ赤にして。
 わたしはくすっと笑うと、ありがとうと言ってバスローブに袖を通した。

「好きで集めてる漫画がアニメ化してね、夕方にやってるみたいなんだけど、それの再放送がやってたから見てた。人気ある漫画なんだよ」
「そうなんだ、少年漫画?」
「うん。その漫画家、去年の秋くらいに失踪しちゃってさあ。無事見つかったと思ったら結婚するとか会見しててびっくりしちゃった」
「あ、それニュースかなんかで見たことある」
「ホント人騒がせな漫画家だよ。漫画、おもしろいんだけどね。──俺もシャワー浴びてこよっと。先に寝てていいからね」

 そう言ってハルくんはバスタオルとバスローブを持って浴室へ消えていった。
 先に寝てていいなんて言う男の子は初めてで、わたしはハルくんがシャワーを浴びる音を聞きながらくすっと笑ってしまった。

 脱いだ服を畳み直してソファに置く。
 テレビを消して、スマートフォンを片手にベッドに腰掛ける。
 ──先輩からメールがきていた。
 明日の予定を聞く内容で、そろそろセックスがしたいと書かれていた。
 急にわたしは冷水を浴びせられたような気持ちになった。

 “誰とでも寝る女”
 机に書かれていた黒い文字を思い出す。
 誰とでも寝る女。──ハルくんとは釣り合わない、穢れた女。

 ハルくんと個展をみたり、話をしたりすることはわたしにはきっと似合わない。
 ハルくんの隣には、わたしみたいな汚い女がいてはだめなんだ。
 わたしは汚い女なんだ。

 涙が一筋零れて頬を伝った。
 どうしてわたしはこんな人間になってしまったんだろう。
 寂しさを紛らわせるために、自ら沼地に足を踏み入れてしまった。
 誘われるままに男と寝て、またそれを何とも思うことがなかった。
 好きでもない男と、ただ寂しさを誤魔化すためだけに何度も──。

 肩が震える。
 スマートフォンの画面が真っ暗になっても、わたしはそれを握りしめたまま泣いていた。
 わたしは、汚れている……。

 かちゃりと浴室のドアが開く音がした。
 わたしは涙を拭うと、お疲れさまとハルくんを振り返った。

「あれ? 起きてたの? ──まゆりちゃん……」
「あ、えへへ。ちょっと嫌なメールがきてて。ごめんね、大丈夫」
「そっか……悩み事とかあったら話してね、力になりたい」
「ハルくん……」

 胸が、痛かった。
 ハルくんの優しい眼差しが眩しく感じた。
 汚れている自分を思うと、情けなかった。
 情けなくて、また涙が出た。

「ごめん……わたし、ハルくんに優しくしてもらう資格ない……」
「資格ってなんだよ、そんなのいらないよ。メールで酷いことを言われたの? どうしたの?」
「ううん、ううん。わたし、汚れてるの。汚い存在なの」
「なんだよそれ。誰がそんなこと言ったの?」
「違うの、わたしね……」


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