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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-5

 わたしが投稿した書き込みにすぐに反応を示して話しかけてくれたのは──あのときの彼の子犬のような笑顔を思い出した──天使の店員さんだった。

 驚いたことに、彼もわたしと同じSNSを利用していて、あの日の夜偶然わたしの書き込みを見つけたらしい。
“お店の店員さんも好きだと話しかけてくれて”という内容に、もしかしたらと思ったそう。

 彼のSNSのプロフィール写真は、CDを片手にピースをしているところを誰かに撮ってもらったもの──ミルクティー色の髪の毛はワックスか何かで整えられていた──みたいだった。だから、すぐにわたしも彼だと気付いて返信することができたんだけど。

「おはようございます。なんだか今日は早起きしたい気分になって。カフェ、いいですね。今度行きましょ!」

 珈琲を飲みながら返信をする。
 天使の店員さんは“ヒロキ”と名乗り、就職先も卒論もクリアしている大学四年生。
 高校三年生の頃からあのCD屋さんでアルバイトをしていると言っていた。

 年齢はわたしのひとつ下、大学には自転車で通っていて、両親と専門学校に通う三つ年下の妹さんと一緒に暮らしているらしい。

 ひとくち囓ったミルクフランスの優しい甘さがくちの中に広がっていく。
 カリッ。ふわっ。吹き出しをつけて書いてしまいたくなるほど、はっきりと音が聞こえた。

 温めたパンは美味しさを何倍もアップさせると思った。
 美味しいパンと珈琲。あぁ、なんて贅沢なんだろう。

 真っ白のプレートにオレンジとクリーム色のギンガムチェックのペーパーナプキンを載せ、その上にお気に入りのパンたちを食べやすい大きさに切ってる並べている。

 駅前のあのパン屋さんを見つけたとき、そのときのそのままの足でわたしは迷わずパンナイフを買いに行った。

 スマートフォンをテーブルの上に置いたまま操作する。
 SNSで知り合ったひとたちの書き込みがぱらぱらと流れていった。

 これから映画に行くと書いているひと、もう一眠りしようと書いているひと、いつ寝ているのかわからないぐらいいつも何かしら書き込んでいるひと、今日の服装の自撮り写真をアップしているひと……様々な書き込みが並んでいる。

 この小さな画面の向こうに、それぞれの生活が広がっている。
 住んでいる場所も年齢も異なるひとたちの営みを軒先からちらりと覗く感覚。
 自分もまた誰かに自分の一部を見せている。

 例えば、お気に入りのお店を見つけたとき、おもしろいお芝居をみたとき、変なキャッチコピーの広告を目にしたとき、おいしい食べ物に出会ったとき……そのうきうきとした気持ちを誰かに知ってもらいたくなる。でも友達に連絡するのは大仰な感じがしてしまう──そんなときに書き込む。

 好きなときに書き込んで、好きなときに返信をする。
 それが、とても気楽で楽しかった。

「やったー絶対ね、約束!」
「うん、約束!」
「あのバンドの話もしたいですしね」
「うん、いろいろおしえてほしいな」

 チャットのように会話がぽんぽんと弾む。
 SNSの良いところは、自分の生活圏内ではなかなか知り合えないひとや話す機会がないであろうひとと近しくなることができるところだと思う。

 こんなふうに約束をすることだって、きっとSNSを通してやり取りをすることがなかったら叶わなかったはず。そう考えると、なんだか不思議な感じがした。

 こうしてやり取りをしている間にも、ヒロキくんがハードロック、オルタナティヴロックといったどちらかというと激しい楽曲を好んで聞くということが知れる。
 頻繁にライブやフェスに行くことも。

 初めて会うオーディエンス、馴染みのオーディエンスたちに混じって拳をあげ、全身で楽しんでくるのだという。

 


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