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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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螺旋-3

 ──ピアノの旋律。
 流れるような、静かで儚げな音の波。
 その波を追いかけるように、重々しいベース音が響いた。

  切りすぎた右手の爪を彩った
  青の名残に目を伏せた 昨日
  両の目の奥に響く雨音が
  終わらない眩暈と夜を塗り潰す
  ねえ 君がいない部屋には
  寂しさと思い出だけが眠ってる
  ねえ 君の声が耳から離れない
  残された白さが泡と揺らめいた
  蝶々が左斜めへ羽ばたいて
  僕の記憶を掻き乱す 刹那
  両の目の奥に残った笑顔には
  蓋をして このままずっと残したい
  ねえ 声が螺旋に伸びて
  離れない 僕の心を離さない
  ねえ 夜に取り残されたままずっと
  晩秋の空へと消えた君だけを
  君だけを 君だけをまだ探してる
  君だけが 君だけが
  ねえ 足りないよ
  空 指輪 青 水煙草 魚 百合
  手 蝶々 白 螺旋状 泡 消えて
  ねえ 君の声が耳から離れない
  残された僕だけ君を探してる
 
 音が、声が、ワンルームの部屋の中に溶け込むように広がっていく。
 それはまるで珈琲にミルクを注いだときのような、パッと咲くような、でもとても静かな広がりだった。

 歌詞のバックにも、ジャケットと同じ絵がモノクロームに加工されて使われている。
 流れるように繋がっていた白の部分が、すっかり動きをとめてしまったように思えた。

 重々しく駆け抜けるベース、低音から高音へ駆け上がるギター、唸るように身体を突き上げてくるドラム、美しいピアノ、切なげな声。甘く優しく、激しく強く。
 ヘヴィーなサウンドに豊かな声が、『螺旋』が長く伸びてのぼっていった。

 鳥肌が立った。

 うたを聞いて、こんなふうに肌が反応するのは初めてだった。
 涙が、知らないうちに溢れてきていた。不思議な感覚だった。

 あの、天使の店員さんの言ったとおりだ。
 うたがジャケットの絵とよく合っていて、そしてリンクしている。
 まるでこの絵を見ながら言葉を紡ぎ、曲をつけたかのよう。

 一瞬にしてわたしはこのバンドのファンになってしまった。
 思わず、最近始めたSNSに感動した気持ちを投稿してしまったほど。

 こんなにもヘヴィーだけれどもメロディアスな音を奏でるバンドにわたしは今まで出会ったことがない。

 二周目の最後まで聞いて一息ついたわたしは、そこで初めておなかがすいていることを思い出した。
 とりあえず晩ご飯を作ろう。寒いし、シチューにしよう。
 ぐつぐつ煮込んだビーフシチュー。

 おなかはすいているけれど、丁寧に灰汁をすくって野菜がとろけるように柔らかくなるまで煮込もう。
 お鍋にたっぷり作って、明日は残りのシチューを使ってドリアもどきにしよう。
 わたしはその考えをとても気に入った。

 歌詞カードをケースに戻すと、CDはデッキに入れたままスイッチを切った。


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