二人は未完成-3
「ツトム……」
するりと、傳田の腕の中からすり抜けた田所さんは、うなじの辺りをポリポリ掻くツトムくんの前にスッと対峙する。
さっきまでの修羅場の張り詰めた空気から一転、和らいだ雰囲気になったような気がして、俺も、そしてツトムくんに敵意を剥き出しにしていた傳田も、固唾を飲んで見守っていた。
「ごめんな。オレが何も考えないで言ったことが、お前を傷つけていたんだな」
「……違う。あたしが勇気を出してツトムに処女なのを打ち明けていればよかっただけなの……」
はらはらと涙を流す田所さんを、ツトムくんが優しく包んだ瞬間、彼女は声をしゃくりあげながら彼の背中に腕を回した。
泣きじゃくる彼女は、やっと心から安心できたんだと思う。
せっかく傳田が施したメイクがグシャグシャになるのも構わないらしく、彼の腕の中で何度も謝り、ツトムくんもまた、何度も田所さんの背中をさすり続けていた。
「……あたし、処女だけど、嫌いにならない?」
真っ赤な目でツトムくんに訴えかける彼女に、バツが悪そうに苦笑いになる彼は。
「当たり前だろ? あの飲み会での言葉は忘れてくれよ。それに実は、オレもお前に言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「え……?」
「実はさ……、処女が重いとか言って、女慣れしてるようなこと、散々言ってたけど……。オレ……も……その……経験がないんだ……」
途切れ途切れになりながらもツトムくんがそう言った瞬間、このスタジオの時間が止まったような気がした。
「え? え?」
目をまんまるくしてツトムくんを見上げたのは田所さんだけじゃない。
俺も、傳田も、井出、多田、取手も、みんながみんな、瞬きを何度もしながら、恥ずかしそうに俯くツトムくんを見つめていた。