〈快楽の源泉〉-13
『……しかし、奥さんにちょっかい出そうとする奴が居たとはな。もっと早く教えてくれりゃ良かったのによぉ』
『そうだよ。あんな下衆野郎が奥さんを呼びつけて抱こうなんて、全くフザケた話だぜ』
「………」
男達の言葉の端々には、あの天パ男への怒気と軽蔑が滲んで見えた。
非日常な日々の連続と、欲求不満からくる寝不足に思考力が弱まっていた恭子には、何処か頼もしいとさえ思えていた。
『なあ、奥さん……しきりに入れ墨のコト気にしてたけどな、アレは今に消えるぜ?』
「ッ!?」
そう言いながら一人の男がベッドに飛び乗ると、恭子の背後に座って後ろから抱き着いた。
更にもう一人の男が右隣に腰掛け、恭子の肩に腕を回す。
その二人の表情は、相変わらず不気味な笑顔を浮かべていた。
『アレはな、皮膚の直ぐ下にしか針が刺さらないように細工してあるんだ……しかも染料も植物性の天然物だ……二ヶ月もすりゃ薄くなってよ、半年もすりゃ綺麗に消えてるぜぇ?』
『一生消えないようなモノ、奥さんの身体に彫るワケが無えだろう?あのババア共が「入れ墨を彫ってやった」って思い込めりゃ、それでイイんだからさあ?』
左右の耳元に囁かれる台詞は、にわかには信じられない物であったが、何の専門知識もない恭子には、やけに説得力がある台詞であった。
確かに、生涯に渡って侮辱的烙印を刻み込む理由は男達には無いだろうし、逆に言えば、この今までの凌辱の証拠を残し続けるというリスクを背負う事でもある。
『安心しなよ、奥さん……いくら俺達だって、そこまで酷い真似はしないぜ?』
『失礼だけどさ、俺達も何時までも奥さんだけに“構ってられねえ”のよ。せいぜい半年くらいか?その入れ墨が消えたら、あとは関わりはしないって約束するよ』
卑劣な言葉ではあったが、この生き地獄にも終わりが来る事を聞けて、僅かにだが恭子の心は軽くなった。
あと半年……普通の日常生活を送るのなら短いと言えるだろうが、思えば恭子が脅迫を受けてから今日まで、まだ1ヶ月すら経過していない……。
坂道を転がるように堕ちていった心身が、半年後になっても平常を保てているのか?
妻として母として存在していられるかどうかは、これからの恭子個人の《強さ》に懸かっている……。