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軽く受け流していた彩希の睫毛が、ゆっくりと上下して瞬きをした。バストの話は全くしていないし、由香里ほど主張はしないが、彩希の膨らみだって細身の体から麗しい起伏を呈するものだから、引け目を感じるようなものではない。だが片膝を立てて足の親指の爪へ滑らせていた筆先を見つめる彩希の目に哀しみが宿っていた。由香里が、あ、ヤバいかな、と思った時には、
「ユッコの意地悪。……ユッコに言われたくない。……ズルいよユッコ。……あー、もう、思い出してきたじゃんっ……!」
ズルいって何が?
高校の頃も揚げ足を取って拗ね、細かい所に拘ってくる、若干面倒なところはあったが、東京に出てきてからの彩希の情緒の不調には拍車がかかっていた。その理由は由香里にもよく分かっていたから、三度目の溜息をつくしかなかった。