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マリネしたマジックマッシュルーム
【痴漢/痴女 官能小説】

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2.-1




 特別ややこしい家庭に生まれたわけではない。サラリーマンの父、専業主婦の母、四歳離れた弟、六歳離れた妹。ひょっとしたら父母は裏で困窮を凌いできたのかもしれないが、三人兄弟を前に特別金に困った様子を見せなかったから、金持ちと胸を張ることはできなくても中流以上の家庭だとは言えた。
 そしてかつて一緒に暮らしていた祖母は孫たちを可愛がってくれ、彩希と弟妹たちも懐いて大好きだった。彩希が中学に上がる直前に他界した時は家族で大泣きした。優しくて、老人になっても清然としていた祖母は、自分の死期を感じ取っていたのか常々「康ちゃんと真希ちゃんのこと、よろしくね」と頭を撫でて彩希に言い置いた。初孫だった自分はとりわけ可愛がられたと思う。だから火葬場で祖母と別れた時、彩希は長女として、これからは祖母に代わって弟と妹の面倒をよく見ようと思った。
 特に弟の康介は幼い頃体が弱く、気も弱かった。近所でも可愛らしいと評判の三人だったが、姉と妹と似ている康介は本当に女の子のような顔立ちをしていて、そのせいで同年代によくからわれた。弟がしょんぼりとして帰ってくると、同級生の男の子にも追いて来てもらって、泣かせた奴ら向かって二度としないように凄んだ。冷静になってみると、そのせいで余計に孤立させてしまったかもしれない。中学生が小学生に食ってかかるのは結構みっともない。
 祖母の代役を務めようと気負っていた。本物の祖母ならば決してそんな方法で解決を試みなかっただろうと反省したが、彩希は弟がイジメられるとすぐに自戒を忘れ 、憤懣が抑えられずにたびたび弟の前に出て、彼を苛難から救おうと盾になった。そしてまた我に返って反省する。その繰り返しでお互い歳を重ねていった。
 康介も姉の庇護で過ごしてはいけないと思ったのだろう。小学校高学年になるとサッカークラブに入って体力を改善させ、意識的に気弱な性格を直していったお陰で、周囲の男の子たちと遜色なく活発な子になってくれた。
 結果オーライだったが、自分のせいで弟が不幸になってしまった可能性だってあった。それでは祖母に申し訳が立たない。高校生にもなると彩希も少しは思慮ができるようになって、これからも康介の面倒はよく見るつもりだが、彼の自身にとって良いことかどうかをちゃんと熟慮しようと自分に言い聞かせた。
 その康介が中学になると、思春期かつ男の子ということで、距離感が微妙になってきた。まだ無邪気で同性の真希の方が扱いやすい。或る日の食卓で「お兄ちゃんて超モテてるよね」と真希が面白がって言ったから、彩希が好きな女の子がいるのか何気に問うただけで、何故かムッとなって、しかし子供の頃に彩希に庇われてきたからぞんざいな態度も示せず、険しい顔で黙り込む康介を見て「ああ難しいなぁ」と嘆いた。
 実際、休みの日に行われたサッカーの試合を妹と見に行ったら、二、三人で身を寄せ合って熱っぽい視線を送っている女の子たちを何組も見かけた。皆、康介目当てだ。体力をつけるために始めたサッカーだったが、面白さに目覚めた康介はよく練習をし、敵チームから注目される選手へとなっていた。そして敵チームの女子マネージャーからも注目されている……。真希の言うとおり、小学生なのにモテモテなのはスゴいと我が弟ながら誇らしかった。
 バレンタインデーにチョコレートが山盛り集まってもクールを決め込んでいる康介を「カッコつけちゃって」と内心微笑ましく思いつつ、「ちゃんとお返ししなきゃダメだよ」と忠告した。すると一ヶ月後、自分は練習があるから代わりにまとめて買ってきて欲しいと、友チョコのお返しを買いに行く真希に頼んでいる。一つ一つに女の子の思いが詰まっているのだからそんな扱いをしては可哀想だが、量が量だけに仕方ないか、姉の言いつけを守ろうとしているだけ良しとしよう。彩希がそう思っていると、
「ん」
 ホワイトデー当日に朝練があるから彩希たちよりも早く出る康介が小箱を押し付けてきた。大通公園近くにある有名スイーツ店の包装紙がかかっていた。
「えー、ココのにしたんだ真希」
 小さいものでも高かったろう。数百円では済まなかったかもしれない。真希のやつ、自分が食いたい店の選んだな。妹のあざとさに呆れ笑いをしている彩希へ「真希にも渡しておいて」ともう一つ箱を渡し、壁に向かって行ってきますと言って康介は出かけていった。直後にやばーいと言ってバタバタと洗面所から出てきた真希へ渡してやると、
「おー、お兄ちゃん奮発したなー」
 受け取るなり、ガサガサと包装を解いて中身を見た。小さくて上品なチョコレートが八つ並んでいた。
「真希が買ってきたんじゃないの?」
 さっそく一粒口に放り込んだ真希は、咀嚼しながら首を振る。
「ちがうよ。……さすがのお兄ちゃんでも、私に返すの、私に買わせるわけないじゃん」


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