1.-4
「待てって。体位変えるだけなんだからよっ……!」
樹生は彩希の体を持ち上げると、強引に男茎を抜いた。
「あぁ……もおっ……!」
亀頭が媚門から抜け出ると、彩希が苛立った声を上げた。ミュールの底を鳴らして砂利に降ろされる。「早く、続きっ……」
握り拳を作って胸板を叩くとチッと舌打ちが聞こえた。今日が初めてではない。樹生とセックスをしていると、途中で必ず一度は樹生の舌打ちが聞こえる。だがその時にはもう、彩希のボルテージは最高潮に達しているからその態度を咎めたことはなかった。
「おら……手ついてケツ出せ」
肩を雑に押された。向かされた前にはガードレールがあった。彩希は躊躇なくガードレールの上端に手を付き、後ろを振り返って樹生の股間に丁度いい高さへヒップの位置を調節した。ビクンッと脈打つ男茎を見ていると、真後ろに向けて顔を出している無毛の狭間が吐息に合わせて淫らに開閉する。
「ホントに……お前はよ。マジモンの淫乱だな」
樹生が前に進んで媚肉へ再び男茎を押し当ててきた。
「ふぁあっ……」
悩ましい声を上げて背を弓反りにすると、肘を伸ばして後ろへと体を押し付けた。痣も何もないヒップが叩かれる。
「じっとしてろって。お前が勝手に腰振らねーようにバックにしてんだからよっ」
「んじゃ、早く挿れてよっ、もうっ!」
もう一度舌打ちが聞こえた。
「……淫乱マンコにチンコくださいって言え」
また面倒な手順を踏ませる気だ。仕方ない。
「淫乱マンコにチンコちょうだい」
「声がちっちぇえ」
……ウザい。
「淫乱マンコにチンコ挿れてっ!! はやくください、ってばっ!」
鬱蒼とした林に向かって叫ぶや否や、ドンッという衝撃とともに、彩希の狭洞を男茎が打突してきた。
「んああっ!!」
大声を上げる。奥深い山中というわけではない。ここに来る途中で、林の向こうに少ないながらも民家を見た気がする。女の悲鳴と勘違いした住民に通報される可能性もあったが、そんな理由で声を抑えることはできなかった。
打突の度に子宮口に亀頭がぶつかってくると、腹の中を抉ってくる感触が彩希のモラルを霞めさせる。あの可愛らしかったツルツルの頭が、昂奮したらこうまて獰猛に媚肉を貪ってきていると思うと、
「イ、イクゥッ……」
胸が切なくなって彼を狭窄して愛しんだ。引き抜かれそうなほど彩希の蜜壺に抱きしめられた樹生が息を切らせて呻く。
「彩希っ……ピ、ピル飲んでるよなっ……」
ということは――。
(ちょ、まっ……)
彩希が質問に答える前に体の中で迸発が始まり、精液が媚壺を満たしてきた。
「もーっ……」
襞壁に樹液のヌメりを感じた瞬間、彼を非難した。膣内射精をされたことを責めているのではない。むしろ彼が悦びの証として撒き散らしてくる温かい粘液が絶頂で敏感になった内部から体内へと沁み渡って、自分で悦んでくれていることが嬉しくなる。
だがもう少し長くピストンを堪能していたかった。要は物足りない。
樹生が律動を緩め、終了の合図のようにふうっと息をついて男茎を抜き取った。彩希は頭を垂れて風に長い髪を揺らし、内股に閉めた脚の間に力を入れて粘液を流し出した。内ももを伝って落ちてくる雫を、極彩色に彩られたネイルの先にのせて口の中へ運ぶ。
(やっぱなぁ……)
彩希は口内に広がってくる雄の香りに溜息をついた。
――自宅近くまで帰ってきた時には、もうすぐ日付が変わるところだった。
「……なぁ」
「んー?」
さすがにこんな時間までガッツリとメイクをしていると、顔肌が疲れていたから、家に帰ったらすぐにシャワーを浴びたかった。それによく考えたら、デートをしたとはいっても、途中で寄ったコンビニで買ったフライドチキンを一つ食べただけで、しっかりとした食事をしていない。空腹が染みるが、時間を考えると今から食べたくない。シャワーから上がったらすぐに寝て紛らわそう。そんなことを考えていたから、樹生の呼びかけにも若干上の空だった。
「別れてぇんだけど」
「……はー? ……しっかりとエロいことしといて、そんなこと言うんだ? 最後に一発ヤッとこってこと?」
彩希は肩に落ちる髪束へ指を絡めて梳きながら、特別怒りもなく樹生を見た。
「それだよ、おめー」
「どれ?」
「てか、お前エロ過ぎなんだよ。ちょっと引いちまうわ」
「……」
「セフレとかなら淫乱もアリなんだけどよぉ、自分のオンナとしてはちょっとムリだわ」