『Twins&Lovers』-97
(兵太さんは、きっと、変な子だって思う……変態だって……)
それが、当然の感情だろう。
(ん………)
ふたみの身体が、もう一度震えた。股間から、最後となる一滴の小水が吹き上がる。全てを放出し、ふたみは、股間を清めて窓から離れた。
(あ………)
気がつかなかったが、随分近いところに満月は見えていた。彼に意思があるとしたら、きっと、自分がやった痴態の一部始終も見ていたろう。
(…………)
寸前まで高まったものは、とっくに冷めて、残ったものはざらざらした、得も言われない孤独感だった。
「緊張、してたんじゃなかったの?」
前後不覚に乱れ、半分落ちていたひとみは、軽く眠った後に自分を取り戻したらしく、開口一番そんなことを言った。
「なーんか、凄いエッチだったんですけど?」
「う……」
確かに。
勇太郎は、始めこそは、満月の明かりに照らされたひとみの裸身に神々しく繊細なものを感じて、その愛撫も積極的にはできなかったのだが、下半身に意識が行ったときには、その部分のあまりの妖艶さに心を奪われて、すっかりその虜になってしまったのだ。
「声、出しすぎたよね……」
しかし、快楽の虜になったのはひとみも同様。まさか、間を入れない絶頂を、三度も連続して迎えてしまうとは。
「ふたみに聞こえてるよきっと……」
意外に薄いこの壁が、あの喘ぎ声を防いでくれたとは到底思えない。なにしろ、ふたみが自慰に耽っているであろう艶声を、壁越しに聞いたこともあるのだから。
「………気にしても、仕方ないけどね」
行き着くところは、“ケ・セラ・セラ”だった。
考えてみれば、ふたみもいい年頃の女の子。勇太郎とひとみが、夜に逢引となれば、そこに艶めいた行為が発生するのも承知だろう。そして、彼女の性格からして、そのことをおおっぴらに口にすることは絶対にない。
ただ、情痴の様を聞かれたとしたら、それは姉として女として、非常に恥ずかしい。
「むー、ま、いいか!」
切り替えの早さは、ひとみの長所だ。
考えるだけ考えて、考えることが無駄とわかると、途端に眠気が襲ってきた。勇太郎の腕枕に、そっと手を添える。
「ひとみ?」
「眠くなっちゃった」
「もう、明日が今日になってるから……」
時間は、0時を越えている。若いとはいえ、かなり体力を消耗した今は、早く寝ないと朝が辛そうだ。
「外、明るいね……」
ふとひとみは、カーテンを閉めてもなお差し込んでくる月の光に目を細めた。
「満月だから」
「きっと、そのせいだよ」
「ん?」
「こんなに、乱れちゃったのは……」
はは、と勇太郎は苦笑するしかない。本当は5日も間を空けたことが大きな原因だとは思うのだが。
「そうかもしれないね」
しかし、そう答えて、勇太郎はひとみの手をそっと握り締めた。ひとみは、安心したような微笑を浮かべ、まどろみの中へ意識を落としてゆく。
「ゆうたろ……好きだよ………」
半分、眠りかけた状態で、ひとみはなおも語り掛けてくる。
「好き……」
「おやすみ、ひとみ」
勇太郎は、ひとみにそっと口付けた。
「ん……うれし……」
そうして、一夜の饗宴を愉しんだ女神は、騎士の暖かさをお供にして、眠りの中へと還っていった。
満月の下、同じ屋根の下で薄壁一枚を隔てた空間には、全く正反対の思惟が存在していることも知らずに――――。