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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-86

第8話  満月に魅せられて

 9月も半ばを過ぎれば、世間は夏を忘れるものである。涼しげな風が街に吹き始め、あの猛暑の記憶は既に遠い過去のことになりつつあった。
「おじいさんの状態だけど……」
 その日、祖父である安堂郷吉の見舞いに赴いた勇太郎は、主治医である杉原に呼び止められ、今現在の郷吉の病状を告げられた。
「正直、私も半信半疑なところはあるが」
と、前置きをしてから、
「以前よりも、良くなってはいるよ」
「そうなんですか!?」
 思わず勇太郎は強く聞き返した。なにしろ、祖父の余命が残り少ないことを告げたのもこの杉原なのだから、勇太郎としても半信半疑なのである。
「病気はある程度のところから、進行していない。この様子が続くなら、退院とまでは行かないが、一時帰宅を許可してもいいかな」
 考えてみれば、安堂家の旧宅に越して以来、祖父は一度もその敷居をまたいでいない。そのことを郷吉は口にしないが、数十年ぶりとなる旧宅への帰還は、彼自身望んでいることには違いないから、これは嬉しい報せにもなるだろう。
「確約はできないから、このことについてはまだ報せないほうがいいね」
しかし先んじて、杉原に釘を刺されてしまった。
「ただ、ね……」
ちょっとばかり肩を落とした勇太郎を不憫に思ったか、杉原は言葉をつなげる。
「今度からは私が定めた日時以外でも、見舞いに来てもかまわないよ」
「いいんですか?」
「思うんだがあの人は、大勢でいるほうが、調子が良くなるみたいだ」
 おそらくこの頃、多人数で見舞うことが増えた事をさしているのだろう。
 なにしろ、以前までは勇太郎ひとりが訪れていた病室に、最近では隣人の安堂一家が加わってきたのだから。
 前回、全ての面子をそろえて郷吉を見舞ったときは、さながらホームパーティーのごとき様相だった。あんなに楽しそうな祖父の笑顔は、勇太郎も随分久しぶりだったし、杉原にとっては初めてのことだった。
 そのとき、ふたみもようやく郷吉と会うことができたわけだが、後からの話、弥生の若い頃の面影を強く残しているらしく、これまたえらく気に入ってしまったのだ。
ふたみも、憧れの“安納郷市”との初会合だっただけに、最初こそは緊張しっぱなしで会話も弾みようがなかったが、ひとみの手助けもあって、気がつけば家族のような雰囲気の中で時は穏やかに過ぎ去った。
 今日は予定があわず勇太郎一人の訪問となったが、これからは定められた日時に縛られることなく郷吉を見舞えるのだから、近いうちに暖かい時間も持てるだろう。
 少しだけ嬉しさを胸に、郷吉の病室に向かった勇太郎だった。
「きゃあ!!」
 そして、ノックしようとしたドア越しに女性の嬌声を聞いたとき、その嬉しさは霧散した。
 だだだだ、とドアに近づく荒い足音。そして、無造作に開かれた扉の隙間から、鬼の形相が見えた。
「あ、あら、勇太郎さん」
 勇太郎の姿を確認したのか、その形相はすぐに笑顔に変わる。
「ど、どうも……」
 しかし、一瞬垣間見た鬼の形相に、勇太郎はすっかり萎縮して、曖昧な挨拶を返すことしかできなかった。



「今回は、ワシも遠慮したんじゃが……」
 頬に鮮やかな紅葉を貼り付けて、郷吉はじっと手を見る。
「今日の久美ちゃん、機嫌が悪かったんじゃろうな」
(いいかげん、その原因に気づいて欲しいんだが……)
 いくら包容力のある彼女といえいつか限界がくるぞ、と勇太郎は声を大にして言いたい。
「よう、来たな。………今日は、ひとりか?」
 それでも笑顔の郷吉。そこに見える一抹の寂しさに、勇太郎は気づかないふりをする。それを指摘されても、郷吉は喜ばないだろう。
「最近、調子いいみたいだね」
「おうよ。お前とひとみちゃんの娘を見るまでは、死んでも死にきれん。人の意思は、病魔でさえも駆逐する力を持っておるのじゃと、ワシは改めて思ったぞ!」
 それはともかく、やっぱり設定は娘のままらしい。


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