『Twins&Lovers』-70
こんなひとみをクラスメイトの誰かが見かけたら、きっと声をかけるに違いない。自分は、あまり目立つほうではないから、それが、自分より成績が良くて、スポーツが出来て、ビジュアルの整った奴だったら、彼女はなびいてしまうんじゃないか?
ぎゅう、と、つい手に力がこもる。ひとみが、少し顔をしかめ、勇太郎を見た。
「いたい」
「ごめん」
「どうしたの?」
ひとみは、勇太郎の顔色のことになると、とてつもなく察しがいい。
ポーカーフェイスとは言わないが、意味違いの“昼行灯”で通り名が付いた勇太郎だ。わかりにくい性格ではあるだろう。……いや、今の勇太郎なら、きっと誰の目にも、愁いの存在が見えるかもしれない。
当然、ひとみの目も、勇太郎の顔に寂しさを見ていた。
「どうしたの?」
繰り返すひとみ。
「いや、その、綺麗だから、さ」
「ふふ、花火?」
わかっていても茶化す。これが、微妙な乙女ゴコロというやつだ。
「……ちがうよ。ひとみがさ、とても綺麗なんだ」
勇太郎の答えは、あまりに真面目で、そして期待通りだった。
その真摯な眼差しに、胸が高鳴る。
どぉん! と、尺の相当ありそうな、大玉が弾けた。一斉に沸き起こった観衆のざわめき。それが、うねりとなって、空に響く。
花火は、佳境に入っているらしい。大玉が連発して挙げられ、一夜の饗宴を、豪快に演出している。それを見逃すまいと、ほとんどの観衆が、空を見上げていた。
「……………」
「……………」
どちらから、だったのかはわからない。ただ、あるのは、お互いの唇の感触――――。
どぉん! ぱちぱちぱちぱち………どどん! ぱちぱちぱちぱち………おおぉぉぉぉぉぉ……………………。
空に上がった柳の枝が、二重三重に花を咲かせて、観衆を喜ばせていた。
廻(めぐり)神社は、なかなかに由緒がある。その昔、荒ぶる土地神を退治するために使わされた神官が、その退治した土地神の変生した娘と結婚し、全てを丸く治めたという伝説から始まっている。以来、特に結縁の社として、町の人たちには親しまれていた。
そんなに大きな敷地ではないが、庭園の中央には櫓が組まれ、太鼓の音と笛が奏でる祭囃子が舞っている。それにあわせて、櫓をまわるように、みんなは踊るのだ。
どん、か、どん、か、どん――――どん、か、どん、か、どん―――――。
「ン………ン………」
遠くに聞える太鼓のリズム。その音を耳に捉えながら、勇太郎とひとみは、唇を重ねていた。
社の裏手は、林が深い。その、奥まったところで、二人は睦み合っていた。
「は……ふう………」
「ひとみ………」
勇太郎は、恋人の名を呼び、また、優しく口づける。唇で、相手をついばむ。
頬、瞼、額……。そして、耳。
「きゃ………」
慎ましい、ひとみの嬌声。今更だが、ここは、勇太郎の部屋ではない。神聖な神社の、裏手の林……つまり、外だ。
虫の声も、夏の風も、木々のざわめきも。ありとあらゆる自然の音が、木霊する場所。
そんな場所で、二人は柔らかく抱き合っていた。
勇太郎のついばみは、また、唇にやってくる。それを受け止め、甘く噛む。