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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-6

 尋常ならざる動悸が、勇太郎をうつ。その仕草は、あまりにも可愛いものだった。どちらかと言えば、男勝りな感のあるひとみからは、想像も出来ない仕草。それ故に、いっそう彼女の少女としての愛らしさが増して見える。
 思わず心を奪われかけた勇太郎は、話の本筋に何とか話題を引き戻す。
「……あれは、忘れます」
「………」
 ひとみの顔にわずかな影が差した。あれとは、官能小説のことだろう。勇太郎に見られたと知っただけで失神してしまうぐらいの衝撃を、ひとみに与えたあの本のことだ。
「誓います。絶対忘れます。証拠に、ひとつ言っておきます」
「?」
「あれ、安納郷市って……ぼくの祖父なんです」
「!!??」
 今度は、ひとみが混乱した。
 目の前にいる勇太郎の祖父が、安納郷市? 思いがけない接点は、確かな事実を、しかし遠いものとして彼女に捉えさせる。
「安堂郷吉、それが祖父の名前です」
「そ、そう……」
「それと、祖父の小説、僕も読んでます」
「え」
 勇太郎は顔を染めた。女の子に、「自分は官能小説を読んでいる」というのはなかなかできない告白だ。自分はいやらしいと認めるようなものだから。
 でも、もっと恥ずかしい思いをひとみにさせてしまったのだから、これぐらいは何でもないことだと勇太郎は真に思っていた。
「僕の、言いたいことはこれで全部です……」
「じゃ、今度は私ね」
 ひとみは、『暗夜奇行』をテーブルに置いた。その表紙がいかにも艶かしい。それだけで、中身の情景を思い出した勇太郎は、股間が張ってきてしまう。男としての本能には、更ながら恥入るばかりだ。
「安納郷市の本、実は結構前から読んでるの」
「そ……」
 そうなのですか、と言おうとしてやめた。
「私も前の家にあったんだけど。あ、ここに越してきて1年ぐらいしか経ってないんだ」
 それは、確かふたみから聞いたことがある、と勇太郎は胸のうちで反芻する。
「あの、何ていうかさ……最初は、恥ずかしくて、いやらしくて、表紙を見るだけでも嫌だったんだけど、ちょっと中を読んじゃったら、その、とっても……」
 扇情的で。ひとみは、そういいかけて口をつぐむ。
「それで、虜になっちゃって……」
 勇太郎も、それは身に染みて理解できる。限りがないのだ、この手の小説は。
 ひとつが完結すれば、次のものを。もうひとつが終わってしまえばさらに次のものを。様々な状況、様々な人間関係、そして、様々な痴態の描写。
 それは、性というものに関心を持ち始めた少女にとって、なんと危険な甘美を備えた果物であったろうか。まさに、禁断の果実。
「一番、好きだったのが『暗夜奇行』で、こっちに越すときに持ってきちゃった」
 前の家に、蔵書は山ほどあったらしいが、さすがに全部は持ってはこられなかったので、最も好きなシリーズを持ってきたと言う。
『暗夜奇行』は、旧華族の令嬢とその使用人が主人公の官能小説で、ふたりは身分を越えて愛しあいながらも、その欲情に果てなく、やがて常ならざる快楽を求め駆け落ちし、行き着いた先々で劣情の限りを尽くすと言う話である。全1巻、税込み480円。
(でも、これって……)
確か、相当にきつい性表現もあったはずだ。安納郷市の特徴は、強姦・陵辱は絶対にないと言う点がひとつ。そのかわりに、羞恥・恥辱に徹底的にこだわっている点がある。
羞恥・恥辱と言えば、必ずついて廻るものがある。それは……。
ふと、ひとみが隣に座っていた。
「ね」
 その息づかいは、とても荒い。
「好きって、言ってくれたよね」
 その瞳は、何かを求め潤んでいる。
「私も、好きだから……」
「ひとみ、さん……」
 ひとみが、全てを言うよりも先に、勇太郎はその肩を抱き、唇を塞いでしまった。
随分と情けない姿を乱発してしまったから、わずかに残された矜持は、ひとみの身体を、自分から、懸命に愛することで保ちたいと思ったのだ。
だからそのまま、勇太郎はひとみを優しく押し倒していた。


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