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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-51

『………

 いつまでも、幼いままではいられない。時間は、確実に二人を成長させている。
 隣りに住む従姉(あね)の優しさは、母のいないヒロヨシにとって母性の全てだった。だから彼は、純粋に彼女を慕い、そして、憧れた。
 そんな彼女が見知らぬ男と、仲睦まじく街を歩いていた。
 学園のマドンナと称される人だ。言い寄る男は数多(あまた)あり、その中に幸福にも彼女を射止める者がいるだろう。それは、男女にとって当然の理だ。
 あの二人は、確実に恋人同士。そう思ったヒロヨシは、姉と慕った従姉に抱いた感情が、異性へのそれだったことを悟った。
 そして、その初恋が、始まったと同時に終わってしまったことも。―――――……』



 “安納郷市”著、『憧憬』<初期短編集『憧憬』(税込み450円)より>。
 勇太郎は、郷吉の話を、いつしか<安納郷市>のものに、すり替えていた。あまりにも、話の内容が、似通っていたから……。
 『憧憬』は、短編集の中でもかなり初期の作品で、隣に住む五歳上の従姉に憧れを抱く少年が主人公の物語だ。
憧れは、憧れだけにとどめようと決めた少年・ヒロヨシだったが、しかし、思いがけないところから二人の仲は近づいてゆく――――。



『………

「ヒ、ヒロちゃん!!」
 ヒロヨシの姿を見つけたサオリが驚愕したもの無理はない。その顔で、腫れていないところは無く、唇の端からは血が流れ、そのまぶたは青くなっていたからだ。
明らかに、殴られた痕だとわかった。
「ヒロちゃん!!」
 ほとんど絶叫のように、サオリは呼び続ける。
 うっすらと目をあけたヒロヨシは、サオリの姿を見ると口の端を動かした。微笑んだのだ。
「どうして、こんなこと……」
 サオリは、ヒロヨシの上体を起こし、背を支える。ヒロヨシの唇が、餌を求める金魚よろしく、ぱくぱくと動いた。
「え?」
 何か喋っているが、聞き取れない。
「ヒロちゃん、動ける!? スギヤマ先生のところに、いこ?」
 サオリがそう言うと、ヒロヨシはふらりと立ち上がった――――。


「しかし、派手にやったな」
 夜のスギヤマ診療所。表の街灯には、無数の羽虫が群がっている。
 そろそろ寝ようかしていたスギヤマは、扉を激しく打つ音によって安寧を破られた。
 ほんの少し、苛立ちを覚えながら玄関に向かったが、表にサオリとヒロヨシの姿を確認すると、すぐに鍵を開けて彼女たちを迎え入れ、まずは、診察室のベッドにヒロヨシを寝かせた。
「一方的に、やられたな」
顔の腫れに赤チンを塗りつけ、湿布薬を貼り付ける。ヒロヨシはうめいた。
「我慢せい、日本男児」
そうとだけいうと、ヒロヨシのかすかなうめきにも耳を貸さず、スギヤマは次々と湿布を重ねた。
「殴られたのは、顔だけか?」
口が痛いので、ヒロヨシは頷いて答えとする。
「相手も、殴り方を心得ていたな」
腹をやられれば、悪くすれば内臓破裂という事態も起こる。もっとも、顔だって失明や脳内出血という、危険なものも多いが……人の頭蓋骨は、なかなか頑丈なものだ。
「まあ、意識もしっかりしているから、大事は無いだろう。でも、明日も来なさい。また、診てあげるから」
こうして、深夜の診療は終わった。
サオリが、顔中に湿布を張ったヒロヨシを見たとき、すぐに声をあげた。
「バカッ!」
涙をたたえながら、ヒロヨシをなじる。
「バカ、バカ、バカ!! こんな、こんな喧嘩なんかして……ヒロちゃん、バカだよ……」
そして、その声は、しゅくしゅくとした嗚咽に変わった。
ヒロヨシは何も言わない。ただ、静かに、泣いてしまった彼女を見つめているだけだ。
ふう、と息を吐いたのはスギムラだった。沈黙が降りた場に、ひとつのそよ風が起こる。


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