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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-52

「見た目はひどいが、たいした怪我じゃない。サオリ君も、まあ落ち着いて」
飄々としたものだ。さすがは、町の名医“白ひげ”。
「でも!」
こんなひどい喧嘩をしたのだ。きっと、相手もただでは済んでいないだろう、と、サオリは荒げた声で続けた。
スギヤマは、静かに顔を振る。そして、ヒロヨシの肩に手を置いた。
「彼は、相手に手を出してはいないよ」
「え?」
と、サオリは涙に濡れた顔に、戸惑いの表情を浮かべた。
「ヒロヨシ君、手を見せてあげなさい」
言いながら、スギヤマは自らヒロヨシの両こぶしを手に取る。そして、その甲の部分をサオリにかざして見せた。
ごつごつした男児のその甲には、なにひとつ傷も腫れもない。
「相手を殴れば、自分の拳だってただじゃすまないよ。特に、彼みたいに力がある男児なら、殴った拳の指の骨を折ることもある」
そう言って、しげしげと手を眺めるスギヤマ。
「粋じゃないか。日本男児、こうあるべきだよ」
 サオリは、深々と頭を下げ、ヒロヨシを連れて診療所を後にした。



「ごめんね」
 帰りしな、サオリが口を開く。
「バカって言ってごめん。……でも」
 なんで、あんな喧嘩をしたの?
 少なくとも、ヒロヨシが殴られるような事態はそこにあったのだ。だから、サオリは訊かずにはおれない。その理由を。
「ねえちゃんの……」
 ヒロヨシは、口が痛むのか、途切れ途切れに言う。
「ねえちゃんの……その……好きなヤツが、絡まれてたんだ。性質(たち)の悪いやつに」
 無念そうに言う。サオリの横を楽しげに笑いながら歩く男の顔が浮かんで、胸が痛い。
「俺は、あんなやつ、知ったことかと思ったけど、でも、あんなやつでも、傷ついたら、きっと、ねえちゃん泣くから……」
 間に入って、口論になって、それで喧嘩になった、と続けた。
「あの人は?」
 サオリは訊く。
「始めは止めに入ってくれたけど、一発殴られたら逃げて、そのまま」
「!?」
 サオリは愕然とした。完全に、ヒロヨシは巻き込まれた喧嘩で怪我をしたのだ。
 そして、その原因は自分の恋人にある。なのに、その人は途中で逃げて、助けを呼びもしなかった。
(なんて、ひと……)
 裏切られた格好のヒロヨシは、しかし、相手に手も出さず殴られて…。それでも、いま誰かを非難するような言葉を吐いたりせずにいる。
「ヒロちゃん……」
 サオリは、弟のように可愛がってきたこの従弟の少年を、思わず抱き締めていた。
「ね、ねえちゃん……。な、なんだよ……」
 従姉の芳香を間近に感じ、ヒロヨシは狼狽した。
「ごめんね、ごめんね。バカだね、私、バカだね」
 そう言って……そう言って、泣く従姉。
「なんだよ、泣くなよ。それじゃ、意味ないじゃないか」
 ヒロヨシは、頬に感じる憧れの人の体温に、どぎまぎする。顔が熱くて仕方が無い。
「ヒロちゃん、ごめんね、ごめんね、ごめんね……」
「なんで、ねえちゃんが、謝るんだよ。なにも、悪くないだろう」
 サオリはそれでも、謝罪の言葉をやめない。
「おれは、あいつを助けたけど、それがしたかったんじゃなくて、ねえちゃんを守りたかった。それだけだ!」
 ぶっきらぼうに言い放ち、サオリの身体を引き剥がした。これ以上、従姉の体温に触れていたら、気がどうにかなりそうだったからだ。
「ヒロちゃん……」
 それでも、サオリは泣き止まず、ヒロヨシの顔を見つめるのもやめない。涙に濡れた頬が街灯に照らされ、美しい従姉の顔が映える。


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