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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-4

 自分は、ひとみに惹かれている。それは、二カ月の中で確かに自覚した自分の思いだ。
 それだからこそ、曖昧なままで全てを終わらせたくはなかった。たとえ、ひとみにわちゃくちゃに罵られ、嫌われることになったとしても、彼女の秘密に独断で触れてしまったことへの詫びはきちんとしておきたかったし、彼女の名誉のためにそれを生涯の秘密にすることを、誓子にでも書いて、何なら血判をも添えて渡す気でいた。
「……ごめんよ」
 勇太郎は、いまだ目を覚まさないひとみの手をとり、囁くように言った。例え相手に意識がなくとも、語り掛けなければ勇太郎自身の精神が参ってしまいそうだったから。
 あの小説で、男を自分に、女をひとみに見立て、想像の中で小説中と同じ情欲に浸っていたのは事実だ。そして、そんな念願を現実に抱いているのも事実。
 それだけに、この失態は勇太郎自身にも痛い。まず間違いなく、ひとみとの縁はこれで切れるだろう。そして、あの優しげなひとみの祖母の微笑みも、なにかとべたべた寄って来るふたみの屈託ない仕草とも、金輪際、疎遠になってしまうと思うと、知らず哀しみに涙がこぼれた。
「……ゆ、たろうくん」
 うっすらと、ひとみが目をあけていた。勇太郎の顔を覗き込んでいる。
「あ、ひとみさん………」
 勇太郎には、言葉がない。さっきまであれほど決意していた謝罪の言葉も、何も出てこなかった。代わりに出るのは、情けないことに嗚咽ばかり。
「泣いてるの?」
 むくりと身体を起こしたひとみに、勇太郎は顔を向けることが出来ない。
「あ……」
 勇太郎は、手のひらに柔らかいものがあることに気づいた。それは、自分から握っていたひとみの手であるにも関わらず。それほどに、いまの勇太郎には余裕がなかった。
「ゴ、ゴメ・・・」
「ありがと」
 何とか、声を絞り出そうとした勇太郎を押しとどめたのは、ひとみの感謝だった。離そうとした手のひらが、ぐっと力を込めたひとみの手によってぬくもりに包まれる。
「あ、あ……」
 勇太郎は混乱した。どんな侮蔑の言葉をかけられるか覚悟をしていた勇太郎にとって、ひとみの一言は意外であり、手を握り締められたことは衝撃であった。
「あの、本は?」
 途切れがちに、ひとみが尋ねてきた。勇太郎は、操り人形のようにひとみの言葉に従って、床に落ちたままになっていた『暗夜奇行』を彼女に差し出す。
 それを受け取る瞬間、ひとみの顔に暗さと赤みが同時に表れたが、彼女は躊躇いもなくその本を受け取ると、その裏表紙を眺めた。
 安納郷市。その著者近影と、略経歴が載っている。間違いなく、勇太郎の祖父の姿がそこにあった。
「幻滅……したよね」
 自嘲気味に呟くひとみ。勇太郎は、その言葉にさえ罪悪感に襲われる。
「女のコが、こんなエッチな小説、読んでるんだもん」
 それでも、寂しげに微笑でみせるひとみのことが、勇太郎には痛ましい。 
「………」
 勇太郎は、今しかないと思った。
 がばり、と、ひとみの前に土下座をし、さんざん考え抜いた謝罪の口上を並べ立てる。
「ほ、ほんとにごめん! ごめんなさい! 結果的に、君の部屋をあさって、君の秘密を勝手にのぞいて、それで、それで……」
 喘ぎ喘ぎ言葉を並べるが、つぎはぎだらけだ。しかし、勇太郎は何とか最後まで言葉をつなげていこうと気力を振り絞った。
 不意に。両肩に優しい力が乗った。ひとみの両手だ。
 顔を上げた勇太郎の前に、優しい乙女の表情がある。


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