『Twins&Lovers』-37
かり、かり、かり、かり――――。
何事もなく過ぎてゆく時間。ふと、気づけば、時計の針は3時を越えていた。
テキストは、思ったよりも埋まっている。
(こんなもんかな)
勇太郎は、こきっ、と肩を鳴らした。
「ふたみちゃん、これぐらいにしよっか?」
「そう、だね」
ふたみが答えた。
「お兄ちゃん……」
そのまま言葉をつなげる。
「わたし、眠くなっちゃった」
ふたみは、ため息をつく。なんとなく、気だるそうだ。
「じゃ、しばらく寝ておいでよ。夕飯は、僕がつくっておくから」
「え、でも……」
「レバニラのお礼。……そんなに、大層なものはできないけど」
「………お願いしていい?」
ふたみの問いに頷く勇太郎。このとき、彼は気づいていなかった。
ふたみの様子が、少しおかしかったことに――――。
(なんだろ……)
なんとなく、朝起きたときからだるさはあった。それでも、酷いことはなかったので、みんなで出かけ、お昼を作り、宿題もやった。ひとみや弥生、勇太郎に余計な心配はさせたくなかったから。
(夜更かししたのが、いけなかったのかな……)
単なる睡眠不足なのかもしれない、と、ふたみは独り合点に考える。
(寝れば、スッキリするよ、きっと)
部屋に入り、ベッドに横たわり、お腹を冷やさないようにタオルケットを被った。目を閉じると、すぐに睡魔に襲われ、ふたみはそのまま夢の住人になる。
その枕もとには、昨夜の夜更かしの原因になった<安納郷市>著『きょうだい』が置かれていた。
『……
コウジにとって、家族はミヨだけだ。
生まれたときから孤児だったコウジを引き取ってくれたミヨの両親が、交通事故で亡くなって以来、<彼女を支えてやれるのは、自分しかいない>と、強烈に思うようになった。
その意識が未だに続き、コウジのミヨに対する過保護は度を極めている。
一方、ミヨもまた、必死に自分を守ろうとするコウジの姿に、これ以上にないほどの情愛を抱くようになった。
両親がいなくなったことで、コウジのことが、はっきり見えるようになったこともあるのだろう。そして、にわかに抱き始めた、兄に対する淡い気持ちは、家族的なもので止まりはしなかった。
そう。いつしか、ミヨの、コウジを見つめる眼差しは、明らかに異性に対するものへと変化していたのだ。……』
『きょうだい』は、義理の兄妹が主人公の物語で、あくまで妹のことは妹としか見ない兄のコウジに対し、異性としての想いを寄せ始めたミヨが、様々な手段で兄を誘惑し、本懐を遂げようとする話だ。
最初こそは、過保護な兄と空回りばかりの妹が巻き起こす騒動を、喜劇風に物語っているのだが、ある事件がきっかけに展開ががらりと変わってゆく……。