『Twins&Lovers』-24
「これからもさ、遠慮しないで遊びにおいでよ」
勇太郎は、あくまで兄の顔を崩さない。
「いいの? ……あんな本……読んで、オモラシまでするコなのに……」
「ふたみちゃん……」
勇太郎は、ひとつ息をついた。それは、ある決意の表れ。
「ちょっと、待ってて」
言うと、しばらく消えて、現れたときは手に段ボール箱を抱えていた。
ふたみの前にどさりと置いたその中には、背表紙が無数に並んだ本の山。
「!?」
そして、ふたみの目に飛び込んだ<安納郷市>の名前。
「実は…さ」
勇太郎は告げた。<安納郷市>が、自分の祖父であることを。
「僕もね、読んでるんだよ」
そう言って一冊取り出した。その表題は、『ひとつ屋根の羞恥』。
「あ………」
「だから、さ。ま、おなじ本を持ってる者同士、これからも仲良く……ね」
「お兄ちゃん……」
赤い顔のまま、ふたみは笑顔で頷いた。勇太郎は安堵する。色々と問題を先送りしている気もするが、とにかくふたみが落ち着いてくれたのでよかった。
「ね……」
ふいに、ふたみが真っ赤な顔で問い掛けてきた。
「これ、借りても……いい?」
恥ずかしそうに手に取ったそれは、『続・ひとつ屋根の羞恥』(税込み460円)だった……。
どうして、勇太郎に、自分の全てを話したのか―――――。
あれから……。
また、ふたりでふたみの家に戻り、帰ってきたひとみと弥生を加えて、しばらくみんなで楽しい時間を過ごした。
そして、勇太郎が帰ってから、自分の部屋に落ち着いたふたみだったのだが、ひとりになると、どうしても自問することがある。
(ほんとは、恥ずかしいことなのに……)
勇太郎に相談して、自慰をして失禁までしたことを全部話して。
冷静に考えれば、それは異常なことではないのか?
手には、今日、勇太郎から借りたばかりの『続・ひとつ屋根の羞恥』。答えは、ここにあるのかもしれない。なんの根拠もないが、なぜかそう思う。
彼も、同じ本を持っていた。同じ苗字だけではなかった、強烈なその共通項。
(だから、私の、お兄ちゃん……)
ふたみは、本当の意味で兄ができたと思った。勇太郎への思慕は、恋というより家族愛の情が深いとはっきりわかった。それが、理解できたとき、ひとみに感じていた複雑な心情も消えた。勇太郎に抱くことができる感情は、あくまで兄へのそれであり、恋人への想いにはなり得ない―――。
(私の……お兄ちゃん)
勇太郎が貸してくれた敷布団に横たわる。
そして、やはり彼から借りた小説のページを、そっとめくり出すふたみであった。