『Twins&Lovers』-23
「ど、ど、ど、どうしたの!?」
それよりも今はふたみだ。静かに泣いているふたみを、どうしよう。
「――――の」
ふたみが、何か言った。消え入りそうな声で。そのため、聞き取れなかった。
「――――ないの」
「?」
「ふたみ、どうしていいか、わからないの!」
ふたみが、泣き濡れた顔を起こした。
勇太郎も、わからない。ふたみが、どうして、なにが、どのようにしてわからないのか、わからない。何より、今の状況がわからない。わからないことのオンパレードだ。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
とにかく、勇太郎は、ふたみのそばによって、彼女の髪を撫でる。最初、歳もひとつしか変わらないこの少女に、安易に触れてしまっていいものか迷ったが、<お兄ちゃん>と呼び慕ってくれている状況に甘え、あくまで兄としてその髪に触れた。
柔らかいその質感は、褥の中で何度も触れたひとみのものとまったく同じ。やはり、当然のことながら二人は姉妹なのだと実感する。
「ふたみちゃん………」
とにかく、髪を撫でる。月並みなことしか出来ないが、真心を込めてその髪を撫でる。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
ふたみは、自分から勇太郎の胸に顔を沈めた。いわゆる、シャツで涙を濡らすというやつだ。いろんなところで、目にしてきた状況が、まさか自分にもやってくるとは。
(それにしても、どうしちゃったんだ?)
勇太郎の混乱はピークに達した。
ただ、ふたみは何を悲しんでこうまで泣いてしまったのか、それに対して自分にできることは何なのか? それを思い、勇太郎は、ふたみの髪をそっと撫で続けていた。
またか。またなのか。
勇太郎の手には、安納郷市著作の『ひとつ屋根の羞恥』がある。
そして、丸い月の浮かぶ敷布団。それは、ふたみの粗相がしみ込んだ物だという事は、彼女本人の口から聞いていた。
この本を読んでいたら、たまらなくなって自慰を始めて、失禁までしてしまい、布団を汚して困っていた――――。要約すれば、ふたみの泣き出した理由はこうなる。
勇太郎は、困惑した。
ふたみは、確かに妹のような存在になりつつあったが、客観的に見れば、自分より一学年しか変わらない同世代の少女なのだ。それが、こうまで、自分の恥を晒してしまっていることに、勇太郎は戸惑った。
「お兄ちゃん……」
すがるような、ふたみの顔。勇太郎は、とにかく彼女の不安を取り除くことを第一に、思考を廻らせた。
「替えの敷布団ってあるの?」
ふたみは首を振る。古くなった布団は処分したばかりで、新しいのはこれから揃えるとこだったと言うのだ。
「じゃ、取りあえず僕の家にあるのを持ってこよう。……で、これだけど」
勇太郎は、ベッドの上にある敷布団を畳んで抱えた。かすかに尿臭がする。それは、傍らで小さくなっているふたみのものだと思うと、我知らず体が熱くなる。勇太郎は、降って湧いた邪念を慌ててかき消した。これでは、変態だ。
「ぼ、僕が預かっとくよ。ドライヤーで乾かして、クリーニングに出しとくからさ」
「………」
ふたみは、真っ赤な顔のまま頷いた。
勇太郎とふたみは、そのまま勇太郎の家に移動した。そして、押入れから敷布団を引っ張り出す。サイズは同じぐらいだから、問題はない。若干、湿っぽいのは我慢してもらうしかないが……。
「お兄ちゃんの家、初めて…」
ふたみが、囁くように言った。そういえば、そうである。ひとみはもう、勝手知ったるなんとやらで、我が物顔に行き来しているが、基本的には勇太郎が安堂姉妹の家に伺うというのが互いの不文律となっていたからだ。