『Twins&Lovers』-165
翌日――――。
郷吉は、目を覚ました。しかし身体が思うように、動かない。それに、眠り始めの記憶が、全くなかった。
口元に、なにか煩わしいものがひっついている。それが人工呼吸器のマスクだと気づくと、ようやく自分の身になにが起こったのか、朧ながら知るに至った。
突如襲われた息苦しさと、胸の痛み。呼吸をするたびに張り裂けそうな苦しみが襲い掛かり、耐えられずにベッドの上をのたうち回った。それを斉木久美に見つけられ、あわただしい様子で医師の杉原がやってきたところで、記憶は途絶えた。
（………？）
意識を現実に戻す。左側に、なにか気配を感じた。目線をずらすと、寄り添うようにしている二つの影が目に入る。
（………）
勇太郎と、ひとみだった。お互いを支えあうようにしっかりと手をつなぎ、寝息を立てている二人の姿が、そこにあった。
（………）
郷吉の胸に、暖かさが込み上げてくる。それが彼の涙腺を刺激し、一筋の雫となって枕もとに流れた。
たった一晩で、身体から大きな力が吸い取られたような感じがする。そして、それは今も続いている。まるで、自分を何処かへと誘うかのように、全身から精気を吸い取るような、忌々しい力の存在を感じるのだ。
（………）
郷吉は、尽きようとしている自分の命に気がついた。あれほど渇望して止まなかった、生への執着が今は綺麗サッパリとなくなっている。まるで、生命としてのひとつの本能が、大きな運命に抗う意識を何処かへ封じたかのように、泰然としてしまっている。それが意識できること自体、異常なことだと思うのに、それを受け入れている自分がいる。
こんこん……がちゃり。
静かにドアが開いた。杉本に伴われて、弥生とふたみが顔を出す。郷吉は、まるで別の世界から眺めるようにそれを追いかけていたが、不意に襲われた眠気に抗うことができず、再び闇の中へ意識を浚われていた。
「勇ちゃん、ひとみ……」
「お兄ちゃん、ひとみちゃん……」
弥生とふたみはほとんど同時に、寄り添っている二人の名を呼んだ。
その声に導かれるようにして目を開いたひとみは、弥生の姿を確認すると、窓が明るくなっていることにも気づいた。
「夜が……あ、ごめんなさい」
「いいんだよ……寒くは、なかったかい？」
弥生はあくまで優しく孫の身体を労わる。
「大丈夫。おばあちゃん、ふたみ、ごめんね……」
昨夜は、ほとんど独断で動いてしまった。きっと、相当に心細い思いをさせたのではないかと、冷静になった今はそう思う。
「秀一郎さんが、いてくれたからね」
ひとみは、弥生とふたみの背後に並び立つ杉本に頭を下げた。昨晩から、恩義のあるこの人を自分の都合で振り回してばかりいる。
「先生、ごめんなさい」
それがひどく罪悪なことに思えて、ひとみは小さくなった。
「……大所帯だね」
笑顔を浮かべてひとみに言葉を返そうとして杉本だったが、その背後から、声が響いたので注意をそちらに向けた。そこにいたのは、郷吉の主治医・杉原であった。