『Twins&Lovers』-15
『………
リカにとって、従兄とはいえ、シュウジは長年共に暮らしてきた兄だ。
それでも、そのシュウジを自慰の対象に据えて指を濡らす夜が続いた。倒錯した快楽に、いつかリコはどっぷりと浸かりきっていた。
その秘めた夜遊びを、シュウジに見られてしまったのだ。それゆえに、この世の終わりのような絶望を抱き、枕に顔を伏せて静かにリカは泣いていた。
こん、こん……
ノックする音が電灯を落としたリカの部屋に響く。優しいその叩き方は、シュウジのものだ。
「リカ。話が、あるんだ」
やはり、シュウジの声。
「お願いだ。入れてくれないか」
リカは一言、
「いいよ」
と、言った。……』
<安納郷市>著、『ひとつ屋根の羞恥』。税込み450円。
そう、安納郷市。ふたみもまた、かの小説家作品の愛読者だったのだ。
『………
リカを思い自分も自慰をしたことがある、いうシュウジの告白は、彼女の心を打った。
それは、感動とか衝撃とか言うものではなく、ひとつのきっかけが彼女の中に出来たことへの喜びだった。
「ねえ、兄さま」
リカは、熱くなる身体そのままに、シュウジに問い掛ける。
「なんだい?」
シュウジも、異様な淫靡さを湛える従妹の瞳と雰囲気に戸惑いながら、あくまで兄としての態度を崩さずに先を促した。
「私の、オナニー……見てほしいの……」
「!?」
「ね、見て……」
リカは、シュウジの返事を聞くよりも先に、パジャマの上から自分の胸を揉みしだき、次いで、右手をズボンの中にずりこんだ。
ぐにぐにと動くそれは、明らかに中の幼い花びらを玩んでいる。
「見てて……私、いつも、こんな……あ、あはぁ……こ、こんなこと、してるの……」
舌にかかるような喘ぎ声の中で、悦楽に震え始めたリカ。
「兄さまのこと、考えて……恥ずかしいトコさわってるの………いっぱい、いじってるの……あ、んくっ………」
シュウジは、突如始まった従妹の痴態に驚きながら、その凝視をやめることはできなかった。………』
自慰を目撃してしまったことから始まる、従兄妹どうしの痴態を描いたこの作品は、しかし、ある地点からまったくべつの嗜好に走る。
『……
リカに求められながら、シュウジにはどうしても彼女の純潔を犯すことが出来なかった。倫理上は全く問題がないとはいえ、長い間、兄としてリカを見てきた彼自身の思いがさせるものかもしれない。
例え、リカを夢想の中で何度も犯したことがあるといっても、現実にそれを行える状況にあるとはいえ、シュウジには踏み出すことができなかった。
それに、将来的に、リカと結ばれることは難しい。二人は従兄妹同士だから、法律上では認められていても、取り巻く環境がそれを許してはくれないだろう。
自分は風見家の後継ぎとして立つ身だ。それに、リカもまた、風見家の令嬢として社交界へのデビューを待つ身だ。
だから、彼女の純潔は、来るべき時までに、兄として守ってやらなければならない。
そういった様々な事象が逡巡となり、荒れ狂う迷いとなってシュウジを襲う。