『Twins&Lovers』-12
第2話 私のお兄ちゃん
勇太郎とひとみが、恋人に―――――――。
二人からその話をされたとき、ふたみは複雑な感情を抱いた。
勇太郎に対して、なにかしら家族愛的な思慕があったのは事実だが、それが恋愛につながるものかどうかまでは、ふたみとしてはわからなかった。
ただ、2ヶ月前から半ば家族の一員となっている安堂勇太郎という一歳上の隣人に、今まで感じたことのない<男の人の家族がいる>という思いを、父性への憧憬に重ねていた。
安堂姉妹には、両親はいない。ひとみやふたみが、幼稚園に通いもしない時分に、父は家を出、母はそれが原因で自ら命を絶っている。
もっとも、その後、二人を引き取った祖母の安堂弥生は、二人には、両親は離婚をしたとはいったが、母親の死は自殺ではなく病死と告げていた。なるべく、事実をうやむやにしたくはなかったので、弥生にとっては、それだけが精一杯の嘘だった。
両親の離婚を、姉のひとみは父親の責任に転嫁した。だから、世の男性をひどく嫌悪し、ひとみの勝気な性格が形作られた。女ひとりでも、世を渡ってゆく―――。そんな気概がひとみにはあり、そして、そんな姉をふたみは尊敬した。
その姉が、親しい隣人であり、<お兄ちゃん>と呼ぶようになった安堂勇太郎とつきあうようになった。ふたみは、かすかに抱いた嫉妬の情念をそれとは気づかずに、何となく落ち着かない。
しかし、二人を祝福したい気持ちも強い。だから、ふたみは、複雑な心境を押し込めて、いつもと変わらない自分を、意識しないまま演じていた。
勇太郎が、姉と恋人同士になったとはいえ、優しい“お兄ちゃん”であることに、変わりはなかったから――――。
玄関のベルが鳴った。ピンポーンというのは、かなり使い古された擬音ではある。
私立城南学園までの道のりは、徒歩で20分が隣り合う安堂家からの所要時間だ。学園の予鈴が8時30分であることを考えれば、家を8時には出たい。と、なると起床時間の限界は、7時55分。それまでは、安眠を貪ることが出来る――――。
それが、引っ越してきて二ヵ月間の、勇太郎の朝の日常のはずだった。
「勇太郎、朝ごはんできたよ!」
その声でうすら目覚めた勇太郎は、手許の時計を見る。いまは、7時。早い、早すぎる。
「勇太郎ってば!」
だだだだ、と階段を駆け上る音が響いたかと思えば次は、どどどど、と勇太郎の部屋の扉が鳴った。容赦ないその仕打ちにも、勇太郎の睡眠欲は耐えようとする。
がちゃ、と扉が開いた。勇太郎は、ひとみの次の行動を予測し、身を固くした。
「えいっ」
「ひえっ」
思ったとおり、タオルケットが見事なまでに宙を舞う。自らの体温で、十分に温まっていたそれを剥ぎ取られた勇太郎は、夏本番間近とはいえ、清涼な朝の空気に身震いした。
「ひとみ〜」
「なぁに?」
「早いよ〜」
勇太郎は、時計を指してむくれた。
ひとみと結ばれてからおよそ一週間。毎朝、朝食に誘ってくれるのは嬉しいが、もう少し時間を考えて欲しいものだ。と、いうより朝の7時に全ての用意を整えてしまっているひとみに、勇太郎は感心した。
ひとみは、家事のほとんどをこなしている。弥生もふたみも、家事に疎いわけではないが、ひとみが率先して家事をやってしまうので、二人は身の回りの整頓ぐらいしかやることがなくなってしまうらしい。
つきあうようになって一週間。意外に家庭的なひとみを見て、勇太郎は嬉しくなった。