『Twins&Lovers』-103
「あ、ひとみ。悪いんだけど、今日は別々で……」
それを受け取りながら、申し訳なさそうに言う。いつもより重いだけに、なおさらそう思う。
「いいよ」
それでもひとみはあっさりと許してくれた。
「轟君、なんか、大事な用事みたいね」
事の経緯を既に知っていたのだろう。くい、と肩で教室の入り口を指し示す。
そこには、ちらちらこちらを伺う轟兵太の姿があった。
「わかってると思うけど……」
「うん」
ふたみのことについては、こちらから言い出さない。それは、何度も確認しあったことだ。
「じゃ」
もう一度、ひとみに声をかけて、勇太郎は席を立った。
「おおきに、勇太郎はん」
待っていた兵太は、まるで仏を拝むように両手を合わせる。大袈裟だな、と、苦笑する勇太郎。それほどに、切羽詰った話なのだろうか。
「何処に、行こう?」
「月並みで恐縮ですけど、屋上にしましょ」
「そうだね」
勇太郎も異存はない。なぜなら、城南学園の屋上ほど、静かで安寧な所はないからだ。転校当初、なんとなくひとりになりたいときに勇太郎は随分お世話になったものだ。
そこならば、落ち着いて話もできるだろう。
思いがけない隣席者の相談事に、実は、かなり緊張をしている勇太郎であった。
「ふたみー」
昼休みを迎えた教室は、雑踏のような騒がしさ。学食へ大挙して駆けていく者や購買へダッシュをかける者もいる。
一方で、弁当持参組はそれぞれのグループにわかれて、優雅にそれを広げ、ランチタイムとしゃれ込んでいた。
「みのちゃん」
ふたみもまた、ピンク色の小さな包みを取り出し、ひとつめの結びを解いていた。耳慣れた声に呼ばれ振り向いたとき、案の定、安原美野里が教室の入り口で手を振っていた。
「どうしたの?」
ふたみの席によってきた仲良しさんに問う。彼女はいつもクラスメイトと学食へ行くのが常だったからだ。
それが、唐草文様に包まれた大き目の弁当箱を持っている。
「なんかね、お父さんが料理に目覚めたかなんかで、はりきっちゃって……」
うんざりしたように美野里はためいきをつく。
「それでねー、ふたみにも協力を仰ごうと思いまして……」
「?」
「ひとつは、お弁当の消化。残すともったいないから。あとひとつは、料理の批評。クラスのみんなにはひと箱丸ごと置いてきた。でもね、ひと箱ぶんといっても、わたしひとりじゃ食べきれないから、ふたみもどうかなーって」
「あはは。うん、いいよ」
ふたみは、可笑しかった。迷惑そうにぶちぶちいいながらも、真面目にお弁当の課題を消化しようとする美野里の姿が、可愛かったからだ。
「ごめんね〜」
「ここで食べる?」
「あ、う〜ん。せっかくだから、屋上でも行こうか」
「うん」
ふたみは一度解きかけていた包みを元に戻した。