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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-102

「勇太郎はん、勇太郎はん」
 それを見計らったように、声を落として兵太が話し掛けてくる。
「なに?」
「その、勇太郎はんと安堂はんとはステディな関係なんでっしゃろ?」
 改めて聞かれなくても、とっくにクラスでは露見していることだ。勇太郎は少し、顔をしかめる。なにしろ、新学期の頭の方は、その話題で随分と冷やかされたものだ。
 “鉄のブロックを溶解した男”“サイレントプレイボーイ”“むっつりラブハイウェイスター”。………難攻不落どころか、不沈艦隊とまで謳われたひとみを、転校わずか数ヶ月で轟沈させたことが、勇太郎への畏怖として数々の称号を彼に与えた。多少、ねたみの感情もあったのだろう。
さすがに辟易とした勇太郎だったが、そういう厄介なことは早い世間の流れにまかせて、のんびりとしていた。その流れに抗えば抗うほど、事態は悪い方へ流れるものだから。
事実、二週もすれば落ち着いて、今では1学期と変わらぬ学園生活を取り戻している。それだけに、再びそのことで蒸し返されるのは、正直、心楽しからざることだった。
「実は、折り入ってお話とお願いが……」
「? 今日は宿題なんて、なかったと思うけど」
「いえ、宿題ではのうて」
「進路希望のプリントは、まだもらってないよ」
「あああ、さりげなく話をすりかえんといてー」
 勇太郎はため息を吐く。つい、意固地になった自分がいることに、気づいたからだ。別に兵太が悪いわけではないのに。
「冗談だよ」
「旦那も、お人が悪い……」
 兵太が、本当に困った顔をする。その表情を見るに、勇太郎は、我ならが本当に意地が悪かったなと思う。
「ごめん。……話って?」
「実は……」

 がら。

「おーい、チャイム鳴ってるぞ。ほら、そこ、はやく座れ。……当番、黒板ぐらい消しておきなさい」
「あ」
 当番は兵太だった。担任の杉林に指摘をされて、慌てたようにがた、と席を立つ。
「話ふっといてすんません。……昼に、時間もろていいですか?」
「う、うん。構わないよ」
「おおきに、です」
 兵太はがたがたと黒板の前に立つと、チョークの粉にまみれながら当番としての責務を全うしていた。
「………」
 一方で、一方的に話を振られ一方的に話を切られた勇太郎は、それでも、何かが動き始める予兆のようなものを感じ取り、眠気もどこかへすっ飛んでしまっていた。



 ……といいつつ、四限の数学は、ほとんどを夢の中で消化してしまった。
自他共に認める文系人間の勇太郎にとって、公式の羅列は夢魔の呪文に等しい。その声に誘われ、勇太郎は甘い夢の中で時間を過ごしていた。
「勇太郎、勇太郎ってば」
「ん、あ………おねだり?」

 ばこ。

「目、覚めた?」
「覚めました。………手をどけていただけますか、ひとみ様」
「うむ、よろしい」
 一連の会話で、どのような状況だったかおわかりになったと思う。
「お昼、どうするの?」
 藍色の包みを、勇太郎の目の前で揺らす。クラスの中でひそかに“プラチナ愛妻弁当”と呼ばれ、男子による羨望と嫉妬に満ちた熱視線を浴びている代物だ。


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