〜再会〜-7
「はぁ……結構、キツかったな」
ずいぶんと前に、昼を報せるサイレンが鳴っていた。南側の窓の日射しは、部屋の中ほど迄伸びている。
間に朝食を挟みつつ、洗濯機は本日、三回目の運転中。流し台の大半を占めていた食器逹も、今は水切り籠の中で行儀よく並んでいる。
「漸く、人間らしい住処になったかな」
リビングに散乱していた雑誌や新聞の類いも整理し、埃だらけだった床も、モップ掛けをして綺麗になった。
これでまた、暫くは保つだろう。
(普段から気を付けてれば、こんな苦労も不要なんだが……)
部屋の乱れは心の乱れ──。高校の時、世話になった監督から口癖みたいに聞かされたが、さすがに、連日の生活の中で続けるだけの根気が俺には無い。
(それに、度が過ぎる綺麗好きは、女が寄り付き難くなるって言うしな)
俺は、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、リビングのソファーに腰を降ろして見違える様になった部屋で一人、達成感に浸りながら祝杯を挙げた。
一見、散らかしては片付けると言う非生産的な行動も、充足感を与えてくれる出来事として、生活には必要という訳だ。
「ふぅーーっ!」
缶の半分程を一気に流し込むと、喉の奥がジリジリとして心得良い。昼食を食いそびれてしまった為、空きっ腹に響く。
もう一本と行きたい所だが、夕食迄さほど時間も無い。残念ながら、暫くの我慢だ。
そんな、休日の昼下がり。案外、意図しない出来事が起こる物で、部屋のインターホンが鳴って突然の来客を報せた。
「何だ……?」
こんな、中途半端な時間帯に訪れるのは、恐らく勧誘かセールスだろう。
「全く……不粋な連中だな」
いくら仕事とは言え、もう暫く、この充足感に浸っていたい俺としては、勘弁願いたい心境だ。
特に、あの長いセールストークには辟易させられる以外になく、早々に御引き取り頂きたい。
俺は、少し横柄な態度で受け答えると、大きめの足音を出して玄関前に立った。
「どちら様です?セールスでしたら、間に合ってますが」
ドア越しに、低く強い口調で言い放った。
思いがけない先制攻撃は相手をたじろがせ、意気消沈させてしまうと、何処かで聞いた事がある。
しかし、ドア向こうから聞こえて来たのは、予期せぬ答えだった。
「あのう、総務の長岡ですが」
(どういう事だ?何故、長岡莉穂が俺の家を訪ねて来る)
気付けば俺は、玄関ドアを開けていた。
「こんにちは、藤野さん」
「ああ……どうも」
鼻梁の通った、綺麗な顔がそこにあった。
何時も、結わえている髪は解かれ、肩の辺りで小さく靡(なび)いてる。何時もの事務服とは違う、艶やかな服装と相まって、普段は感じない華麗さを纏っていた。
「あの、何か急を要する不手際でも?」
彼女が休日にも関わらず、此処を訪ねる理由は一つ──。俺は、気持ちを仕事モードに切り替え、様々な場面を勝手に想定して対策していた。
しかし、長岡莉穂の答えは、俺の想定を遥かに越えていた。