〜再会〜-11
(何やってんだよ。全く……)
俺が出ないと、ごちゃごちゃと煩く言うくせに、自分だって待たせるじゃないか。
そうして暫く待つが、全く出ない。
「全くっ!何時まで待たせんだよ」
結局、二十回を数えた辺りで俺は諦め、一旦、切る事にした。
「何だよっ。自分から掛けて来といて、出ないなんて」
そう悪態を吐いていた矢先、スマホが着信で震え出す。再び亜紀が掛けて来たのだ。
俺は直ぐに通話状態にした。
「もしもし!」
「……んふふふふっ!」
第一声で聞こえて来たのは、亜紀の含み笑い。何か、悪企みでも隠している様な。
思わず背中に、冷たい物が走った。
「二十回も呼び出し続けてくれるなんて、とっても嬉しいわ!」
そう言って続く、人を小馬鹿にした笑い声。我が姉らしく弟の悔しがる壷を、よく心得てやがる。
だったら俺も、遠慮なんかする気もない。
「そんな言い方するんなら、切るよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「三年半ぶりの電話で、こんな子供染みた真似するなんて。姉さん、三十歳にもなって何やってんだよ!」
「う、うるさい!私は未だ、二十九歳よっ」
「同じ事だろ。いい歳した大人が人を試す様な悪戯をやって、恥ずかしく無いのかよ?」
「わ……判ったわよ。悪かったわ」
亜紀の、声のトーンが萎れて行く──。ふふん。俺だって三年半前迄とは違って、それなりに人生経験を積んで来たんだ。
「それで?用件は何なの」
俺は、出来るだけ落ち着いて優しく語り掛ける。社会人としての経験の違いを見せ付けてやろう、と。
すると亜紀は、釣られる様に静かに語り出した。
「あのね、来週には帰って来るから」
「えっ?」
「だ・か・ら、そっちで美容店を開くの」
「ええっ!?」
亜紀の話によれば、三年半余りに渡る仕事への献身ぶりが認められ、この度、新規店の責任者として戻って来るそうだ。
「それでさ。来週から暫くの間、アンタのアパートで寝泊まりさせてよ」
「ちょ、そんな話、初めて聞いたぞ!」
「だから今、言ってんじゃない!」
「それってさ。母さん逹は?」
「勿論、知ってるわよ。私がそう言ったら“和哉も喜ぶわよ!”だって」
何時もこれだ!──。俺が、あれからずっと“悩んできた”と言うのに、又、人を自分のペースに巻き込んで、無茶苦茶にするつもりなのか。
「それさあ、断っちゃ駄目なのか?」
「どうして?新しい住処を探す間、協力してよ」
「実家に住めば良いじゃないか!」
「店の改装工事が有って、立ち会う必要が有るの。だから、実家からだと時間が掛かり過ぎちゃうの。ねえ、お願い!」
此処まで言われちゃ、これ以上、断り続けるのは酷と言うものだ。
「判ったよ。姉さんには負けたよ」
「やった!ありがとう和哉っ。やっぱり持つべきは弟よねっ」
その後、亜紀は何かを喋っていたみたいだが、俺には、それらを聞く気力さえ失していた。
──また、あの悩ましい日々が、甦るのか。
そう考えると、気分が沈んでしまいそうだ。
同じ日に起きた思い掛けない二つの出来事──。唯、その性質は全くの正反対で、一方は喜びを与えられ、もう一方は再び、俺の心を掻き乱すだけかも知れない。
(正直、勘弁して欲しかったな……)
俺は今、近々に訪れるであろう出来事について、戦々恐々という心境しかない。
「Overtake goodbye」〜再会〜完