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紡ぐ雨
【SM 官能小説】

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志津絵-20

こんな異常な家は出なければ。
実際、まだ大学が始まったばかりだと言うのに勉強が手につかない有様だった。幸い新聞屋の2階を勤労学生のために安く貸してくれると言う話もある。
ここにいては、彼ら同様自分まで狂ってしまう。

いや、僕はもうすでに狂っているのかも知れない。

 帰宅した梅林はすぐに家の中の違和感に気づいた。
いつもなら整っているはずの食卓にはなにも乗っていない。それもそのはず、志津絵は夫婦の寝室で畳の上に横になっていた。
「どうした。具合でも悪いか」
「いいえ。ただ、雨の音を聞いていました」
「そうか」
梅林は上着を脱ぐと衣紋かけにひっかけ、ズボンも水滴をふき取って同じようにかけた。
普段着ている着物に袖を通した。
「帯を頼む」
志津絵は緩慢な動きで立ち上がると帯をしめた。
梅林の背中に顔を付けると、夫の匂いを嗅いだ。
「先生、私は今日……米屋の配達にまで手を出してしまいました」
「……」
「その後丈太郎さんとも。丈太郎さんは、私を淫売売女と罵り、私たちを異常と……先生、私はその言葉だけで……濡れてしまいました」
「志津絵」
「私はもうダメなのかも知れません。彼の言うとおり淫売なんです」
「苦しいか、志津絵」
「……はい。もう、心の持って行きようがありません。先生は優しすぎる。志津絵は真綿で首を絞められているようなものです」
「そうか」

 その夜、丈太郎は梅林にこの家を出ることも申し出た。
国費で大学に進学した身である。それを下宿先の妻に心奪われ、勉強どころではなくなっていることに危機感を覚えた。
留年など許されない。村で初めての帝大生と騒がれ、期待を背負って上京したのである。
「志津絵さんが欲しいと思いました。実際、あの人はこの家から出たがために僕に体を許したのかと。でも、そうではなかった」
あの人は病気です。
そう言った。
「先生はニンフォマニアと言う言葉を知っていますか」
梅林はまっすぐに丈太郎を見ていた。
「色情症だったか」
丈太郎は頷いた。「女子のそれをそう呼びます」

「志津絵さんは言っていました。あなたはわざと僕のような若者を書生としてここに住まわせて来たと」
 梅林は黙って頷く。
「前の学生たちも、同じように彼女を抱いたんですか?抱かせたんですか?」
 そうだ、と答えた。弁解もなにもなかった。
「あなたは……それで平気なんですか?」
「君に言わせれば私も異常者なんだろうな」
丈太郎は汚いものを見るような目で梅林を見た。
「他の男に妻を抱かせて、その詳細を事細かに聞いたさ」
「なんで……」
梅林は襖に目をやると妻の名前を呼んだ。
「そこにいるんだろう」
志津絵は静かに襖を開けると「はい」と答えた。
「彼には話そうと思う。聞くのが辛かったら睡眠薬を飲んで寝てしまいなさい。朝には終っている」
「いいえ、でも。私は寝室におります」
梅林は頷くと、再び丈太郎を見た。
「志津絵は確かに一般的な女より性欲は強いだろう。あれは可愛そうな女でな。処女を奪われたのはたった10の時だ。畑の真ん中で数人の男に襲われた。次の男はあれが13の時に同じように無理やり犯した」
「……」

 梅林はその後の志津絵の生き様を話して聞かせた。
梅林と出会ったのは、志津絵が22の時だった。2度の堕胎で子供は産めない体になっていた。
「料亭を追い出されてから、志津絵は名古屋でチンピラに捕まって体を武器に詐欺の片棒を担いでいたそうだよ。その男がサディストで、セックスの前には必ず暴力を振るったそうだ。
 相手が抵抗できなくなるまで殴ると、性的興奮が高まりぐったりした志津絵を好きなだけ抱いたそうだ」
 丈太郎は気分が悪くなりそうだった。新宿での事件を思い出すだけで、丈太郎は恐怖に体が震えるほどだ。
「その男の影響とは思えない。きっと元々、あれの中に流れていた血なんだろうな」「志津絵は被虐嗜好がある女だ」
「え?それは……つまり……」
「肉体的にも精神的にも、責められることで快感を覚えるのだよ」




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