志津絵-17
「先生」
「なんだ」
「私は先生にお会いできてよかった。こんな私を受け入れてくださって、本当に」
「なに、私もおまえも似たようなものだ。凹凸がひとつになっただけだ」
「先生、私我慢できません」
「無理を言うな」
志津絵ははらはらと涙を流した。
「だから。椙田君のような若者を家に住まわせているんだ」
「いやです。私、いやです」
梅林はクロッキーの手を止め、志津絵の腰を掴むと後ろから彼女の割れ目に舌を這わせた。
「あああ、先生……」
「志津絵、かわいい、志津絵」
大学が始まり、丈太郎は昼は学校、夜明け前は新聞配達と言う暮らしに慣れ始めた。
志津絵に対しての気持ちは複雑だったが、顔を合わせる時間が減ったことで気を紛らわせることができた。
大学に出かける前など、志津絵が庭で洗濯をしている後姿を見ると、尻の丸みに欲情することもあったが、あえて目を逸らし考えまいとしていた。
そんなある日、大学へ行ったものの休講になっていた。今日の講義はそれしかなかったため、丈太郎は本屋など見ながら時間を潰して家へ戻った。もうすぐ梅雨になる。
じめじめと湿っぽい空気が不快だった。
帰ったら風呂を使わせてもらおう。どうせ薪割りも風呂焚きも自分の仕事なのだ。
玄関の引き戸を引くと、微かにラジオの音が聞えた。
志津絵は昼間ラジオをよく聞いている。靴を脱いで廊下を進むと居間の襖が開いており、長椅子の上で志津絵がうたた寝をしていた。
肘掛に肘をつき、拳をあごに当てて、考え事をしているような格好で静かに寝息を立てていた。呼吸に合わせ胸が上下している。
穏やかな笑顔は、あどけなくも見え激しく乱れる彼女とは別人のようだった。
梅林がいない。
そうか、今日は絵画教室の日だったことを思い出した。志津絵は、夫と書生を送り出し、ほんの午後のひと時をゆっくり過ごしていたのだろう。美しく、淫靡な人妻。
丈太郎は彼女の寝顔をみているうちに、なぜかとても悲しくなっていた。
この人は幸せなのだろうか?
もしも幸せなら、なぜ夫を裏切り自分と寝るような真似をしたのだろうか?第一、親子ほども年の離れた男に嫁ぎ、この人は本心から喜んでいるのだろうか。
丈太郎は志津絵の寝顔を見つめた。
もしかしたら彼女は自分に助けを求めているのかもしれない。
この家から連れ出して欲しいと、声に出せない助けを求めているのかも知れない。
「志津絵さん」
丈太郎は志津絵を揺り起こした。
「丈太郎さん。どうしたの?学校じゃなかった?」
「そんなことはいいんです。あなたは、ここから出たいと思っているんじゃありませんか?」
「え?なにを言っているの?」
「僕に助けを求めたんじゃないんですか?あなたは幸せじゃないんでしょう?」
「意味がわからないわ」
「僕はまだ学生で、すぐにあの男からあなたを救い出すことはできません。でも、きっとここから自由にしてあげます。もう少し我慢してください」
「丈太郎さん……?」
丈太郎は愛しいその唇を吸った。柔らかく、しっとりとしていた。
「う……」
「あなたが好きだ。こんな風に女の人を見たことは一度もない」
丈太郎は着物の合わせから手を差し込み、柔らかな乳房を揉んだ。
「丈太郎さん、どうしたの?」
「全部僕のものにしたい」
後ろに手を回し、帯を解いた。志津絵の肌は少し汗ばんでいる。
長椅子の上で、二人は絡み合った。
二人の痴態は夕方まで続いた。