〜 火曜日・浴濁 〜-1
〜 火曜日・浴濁 〜
ある一定のラインを越えたとき、脳はどんな行為でも受け入れるよう自分自身を暗示にかける。 例えばパワーリフティングの1種目、デッドリフトで一度自己ベストを更新した人間は、連続してベンチプレスやスクワットまで更新する。 限界を超えるということは、脳が設けた垣根を破ることに他ならない。 それは一種の思考停止、思考放棄であり、理性ではどうしようもない次元。
スカトロジーにしても同じことだ。
本心がどうであれ、表面的に笑顔をつくって白と茶が混じった液体の中に佇める少女たちは、1つの大きな壁を越えた。 クラスメイトの『ご挨拶』を体内に受け入れたのだから、これから何をされたとしても、結局は受け入れることになるだろう。
29、30、33番の3名を除いたプールの面々をその場に横たわらせる。 髪までベットリ汚濁につかったところで、その場で柔軟体操をしたり、前転したり、コロコロと横に転がるように命じてみた。 案の定元気よく返事をし、さして躊躇いもせず自ら汚濁に塗れてゆく。 クラスメイト同士で溜まった液体を浴びせっこするよう指示しても、やはり抵抗はせず、従順にお互いを褐色の濁流で汚しあった。 乾いた笑顔すらみせて液体をかけあう様子は、ややもすると本当に楽しそうにさえ見える。
一頻(ひとしき)り自分たちの排泄物に塗れさせてから、1番から3番まで、順にプールサイド側へ呼んだ。 プールサイドの上では、1番が残した牛乳浣腸を特大シリンダーで全て注入されてお腹を限界まで張らした29番が、真っ青な顔をしてお尻をつきだしている。 30番は2番の残りを、33番は3番の残りを同じように全て浣腸され、29番同様お尻をおしだしながら、暴発させないよう必死で括約筋を締めている。
ぷるぷる震えるお尻の間から覗く3つの肛門。 それぞれの真下に1、2、3番を並ばせたところで、私はこれから口にするべき台詞を教えた。 といっても、一字一句繰り返せというわけではなく、あくまで考えるのは自分。 浣腸液の滝にうたれながら、大便を称え、感謝し、敬うことを大きな声で宣言することで、この6限の締めとなる。
最初は1番。 小ぶりな乳房の先端まで、ビッシリとかぐわしい香りに包まれていた。
ブシャシャシャシャ―……
第3姿勢をとって後頭部に組んだ手の先から、更に白い浣腸液を浴びるなり、
「ウンチ様ありがとうございます! あたしはウンチ様で身体を洗う、ウンチ以下の存在です! これからもウンチ様に近づけるよう頑張りまあす!」
浣腸液が口や鼻に入るのも構わず、大きな声を教室中に響かせると、ポタポタと髪から液体を滴らせ、肩で大きく息をついた。
1番はこれで締めであるが、29番には一息つく暇もない。 次は4番が残した浣腸液を直腸いっぱいに注ぎ、二度目の『禊の滝』を果たす役目が待っている。 しかも、30番と33番が排泄する間に準備を完了させねばならず、ぶるっと1度身体を震わせると、よろめきながら次の金盥に向かった。
続いて2番。
ブシャシャシャシャ―……
「ウンコシャワー気持ちいいです! ウンコで綺麗になる、ウンコ以下の私で御免なさい! いっぱいウンコを食べて、ケツウンコになるよう頑張りまあす!」
何を言っているのかさっぱり分からないが、何が言いたいかは何となく分かる。
そして3番。
ブシャシャシャシャ―……
「ウンコ様有難うございます! ウンコ様で身体を浄めていただきます! 臭くて下品な私ですが、これからもウンコ様よろしくお願いしまあす!」
無難に、ウンコウンコと連呼した。
だいたいの生徒は3番と似たり寄ったりの言葉を紡ぐ。 滝を迸らせる3人も、既に括約筋を調節する余裕もなく、一度に全力で浣腸液を浴びせ続けた。
ブシャシャシャシャ―、ぶりっ、ぶばっ、ぶしゃっ。
ブシャシャシャシャ―、ぶぴっ、ぶぴゅっ、ぶりぶりぶり。
プールサイドで排泄を続ける3人が、10回を超える大量浣腸に耐える。 一方浴びる側に回った残りの32名。 彼女たちがプールで浣腸を浴び終わった頃には、休憩時間に麻痺から感覚が戻った私の嗅覚もすっかり鈍ってしまい、息を吸っても嫌悪感がなくなっていた。 ほとんどが浣腸液で流されて、所々便滓がこびりついた少女たちは、やはりただ疲れた表情でプールの床から私を見つめる。 私は彼女たちをプールサイドに上がらせ一列に並ばせた。 ここで、
キーン、コーン、カーン、コーン。
6限の終わりをチャイムが告げる。 すぐに全員が直立し、委員長の号令で深々と頭をさげた。 私は全員にその場で体育座りするよう、そしてそのまま待機を申し渡し、教室を出た。 せっかく鈍った嗅覚が再び回復することは億劫だが、次の時間の準備がある。 スカトロジーずくしの一日も次で最後だ。 総括に相応しい所作には、それなりの心の準備が必要になる。 ここまで排泄を受け入れた少女たちに贈る、最も困難な課題。 それが『詰折』ならぬ『詰便』と、その上で一体化する『埋便』だ。
体育座りにも理由がある。 彼女たちが最も苦しい時間を過ごすのは、間違いなく最後の時間だ。 この時間を乗り切るためにも、せめて疲れた身体は楽な体勢で休んで欲しい。 静かに座って過ごす10分間は、たかが10分、されど10分。 強張った括約筋くらいなら、十分に本来の締まりを取り戻せるだろう。
部屋を出際に温度計を一瞥する。 室内の温度は32℃、ちゃんと裸でも過ごしやすい温度に設定してある。 道理で服を着た私には暑いわけだ。 だが、私の健康よりは、濡れた生徒たちの体温を保つ方が優先するというものだ。 1人あたり2キログラム、いや4キログラムとして、35人なら140キログラム……必要な量を反芻する私に、F棟の新鮮な空気が沁み込むのだった。