14.-1
翌日は快晴だった。明るい午前中の光の中を、自転車の小学生達が通り過ぎていく。マンションの駐車場に次長の車が滑り込んでくると、志織はボストンバッグを手に車に駆け寄っていく。
「おはようございます…。」
「おはよう、いい天気だね。」
「ほんと…、よかった。」
「俺の普段の行いがいいからかな。」
「あれで、ですか…?」
「あれでだよ。じゃ、行こうか。」
車が走り出すと、窓からは爽やかな風が流れ込み、志織の髪を揺らす。
「どのくらいかかるんですか?車で。」
「そうだな、4、5時間くらいかな。」
「疲れたら運転代わりますから。無理しないで下さいね。」
「そっちの方が疲れそうだな。」
国道の車の列は順調に流れていく。
「かわいい格好だね。珍しく。」
「珍しいは余計です。」
膝丈のネイビーのキャミソールワンピース、白い薄手のカーディガン、素足にアンクルにストラップの付いたシルバーのヒールサンダル。
「似合ってます…?。」
「ああ、上品で、素敵だ。よく似合ってる。」
「よかった…。」
「彼氏の趣味?」
「違いますっ。」
いつも次長は一言多い。車は高速道路へ入っていく。
「でもそのヒールじゃ、運転できないだろ。」
「すみません…。あの、アイスコーヒー作ってきたんで、欲しくなったら言ってください。」
バッグからステンレスのボトルを取り出し次長に見せる。
「ん?ああ、ありがとう。じゃ後で休憩するときにもらおうか。…どんな学生だった?高校時代は。」
「え…、そうですね、高校の時はバレーしてました。これでも選手だったんですよ。」
「へー。もててた?」
「んー、微妙ですね…目立たない方だったし。」
「彼氏は?」
「一応…。」
「青春だな。」
「次長は?」
「エイケン。」
「英語?」
「映画。」
「昔からお好きなんですね、映画。」
ハンドルを握りサングラス越しに前を見つめる次長の横顔を盗み見る。
「ああ、ホントはサラリーマンじゃなくて映画監督になるつもりだったんだけどな。」
「ふふ…エッチな…?」
「おい、ひとの青春を茶化すなよ。」
「すみません…。」
車がサービスエリアに滑り込み、駐車場の端で停まる。
「コーヒー、もらおうか。」
「はい、どうぞ…。」
コップを渡した手首を掴まれ、引っ張られる。次長の上に突っ伏した格好で、上から頭を押さえられる。
「タバコ吸ってもいい?コーヒー飲みながら。」
押さえられた頭を動かし、小さく頷く。私の頬に、ズボンの中で硬くなったペニスの先が当たっている。頭の上でライターの音が聞こえる。
「しゃぶりたい?」
頭の中に、記憶が甦る。ペニスの熱さと硬さと味。聞かれて、小さく頷く。次長の上に顔を伏せたままの私の髪の毛を、指で梳くように私の頭を撫でている。耳の奥に自分の鼓動が聞こえている。口の中に唾液が溜まってくる。高校時代の私が今の私を見たら、なんと言うだろうか。恋人でもない男のためにおしゃれをして、恋人でもない男のペニスを口に含まされる私の姿を。ふと次長の手が私の身体を起こす。
「うまかった、ごちそうさま。」
顔を伏せたまま、空になったコップを受け取る。
「トイレは?」
「行ってきます…。」
バッグを手に車を降りてトイレに向かう。家族連れで賑わう土曜日のサービスエリア。トイレの個室に入り、下着を下ろしてトイレットペーパーで身体を拭う。