恋愛模様-3
「な、なんだよ、それ。お前、俺とデートしただろ?」
「デートくらい、ですよ。あなたの押しが余りにも強くて言い出せなかったのが事実です。ですから、お引き取りください。」
ふつふつと煮えくりがえりそうな腹腸。バイトを終えて疲れているのに、11月の寒空の下で真っ暗の中、何故こんな無駄話をしなくてはいけないのか。
「…そんなに、俺の好意を受け取れないって言うのか?」
一歩、また一歩と迫り寄る。後退していくが、コツン…ヒールが階段にぶつかった。逃げ場は…もう無い。
「なぁ、好きなんだよ。俺、ただ沙夜ちゃんが好きなんだよ」
「そういうの、本当に迷惑なんです。帰ってください…」
ギュッと肩を掴まれた。ダメ…やだ……殴られる?やだ……たぁき!たぁき……!!
頬に触れたのはビンタでは無く、あごを押さえるための手の平だった。唇にガサガサした物体が押し付けられる。上下左右に揺する様に動くので唇が痛い。
奥歯を噛み締めて、唇から入り込もうとする舌を拒絶するが、頬骨を圧迫されて無理矢理開かされた。涙が出てくる。気持ち悪い…吐き気がする。やだ……たぁき…、たぁき…
「…ぷはっ、ははん。気持ち良くて抵抗も出来ないのか?お前、淫乱だなぁ。もう俺のが欲しくて仕方ないだろ?」
目頭が潤んで何もかもがぼやけて見える。あたし…ヤられちゃうのかな。このまま…訳も分からずに。
「さぁ、鍵開けろよ。こんな場所で人に見られながら…したくは無いだろ?ほら、鍵かせよ」
肩の掴まれた部分に痛みが走る。…もう、何もかもが面倒……。死んでしまいたい。これが、レイプと言うものだろうか。いや、まだヤられて無いから…レイプ寸前って所?まぁ…もうどうでもいいけど
「ッチ…。ほうけてやがる。鞄貸せ。俺が開ける」
肩が放され、持っていた鞄をひったくられた。ガサガサと鍵を探しているのだろう。
その時………
ウーッ、ファンファンファンファン…
聞き覚えのあるサイレン。あれは確か…
「なっ?パトカー?」
赤いランプが眩しい。アパートの駐車場に入って行く。どうしたんだろう…
「こっちです!こっちにレイプ犯がいます!」
ずっと願っていた声。たぁきが…
たぁきは桜井先輩の腕を掴み、背中でひねって逃げられない様にしている。お巡りさんが二人来て桜井先輩をパトカーに乗せて行った。残ったお巡りさんは、たぁきに詳しく話を聞いている。
「あの、俺見てたから、今まさにレイプしようと…無理やり部屋に入る寸前だったんです。あ…サヨには聴かないで下さい。……俺が話しますから。」
急な展開に私の脳味噌は追いつかない。ただ分かるのは…
「サヨ」…やっぱり、たぁきが呼ぶのは違う。胸がきゅんとして暖かい気持ちになる。数分、警官は話を聞いて帰っていった。
「…サヨ……大丈夫?」
眼鏡の奥の瞳から心配の色が漂っている。たぁき…だ。本当に、たぁき…
思わず胸に飛び込んだ。広くて暖かくて、幼い頃と同じ匂い。
「部屋に戻ろ?おいで」
解ってるけど、今この胸の中から離れたくない。やだ、行かないで。
「サヨ…」
抱き締め合ったまま、グッと持ち上げられた。地面から10cmくらい浮いている。そのまま、たぁきは自分の部屋に私を運んだ。お姫様抱っこじゃない辺りが、色気が無いたぁきらしい。
「サヨ、ごめんな」
リビングの真ん中で立ったまま抱き締め合う。たぁきは馬鹿みたいに「ごめん」を繰り返した。抱き締める腕にも力が込められる。ふと、肩にたぁきの腕が触れた。