記憶のない1日-2
「よぉ」
「うーす」
男子生徒に声をかけられながら、野田が入室してきた。
「!!!」
野田の顔を見ると、どうしても今朝の一件が目に浮かび、恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
(――だめ、見ていられない――)
思わず顔をそむけてしまう。
しかし、奈緒子の頭に浮かぶのは、そのことばかり。
思い出すまいと努力しようとしても、却ってそれが裏目にでた。
「――ぐち、溝口」
ハッとして顔を上げると、クラス中の視線が奈緒子に刺さっていた。
「なんだぁ?溝口は目を開けながら昼寝するのか?」
黒板を背に、教科書をもった教師が呆れたように言った。
「――あ、すみません・・」
「・・まったく。お前といい野田といい、そんなに俺の授業がつまんないのかぁ?」
教師が泣き真似をすると、教室中にどっと笑いが起きる。
――こっそり野田を盗み見ると、野田は机に突っ伏して寝ていた。
「・・お。なーお?奈緒子!」
「あ、ごめん、何?」
いつの間に来たんだろう――奈緒子は学食にいた。目の前には日替わりB定食。いつも頼むメニューだ。
「飯食わないの?マジ今日のナオおかしいよ?なんかあった?悩みがあるなら聞くけど」
目の前の香澄はカツ丼とたぬきそばを既に半分ほど食べ終えていた。
「あ、そんなんじゃないよ――大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
手を振りながら笑顔をつくった。
同級生の股間について考えていた――なんて平然と言ってのけるほど、奈緒子は開けっぴろげな性格ではない。
「そう?それならいいんだけどさ。」
「それより香澄・・それ全部食べるの?」
「ほうよ。ガッツリ食べて、体力つけにゃきゃ。セックフって実際、体力ひょうぶなんらから。」
「ぶふっ!!」
口の中でモグモグ言わせながらとんでもない言葉を飛ばしてきた香澄に、奈緒子は口にしたご飯粒を吹き飛ばしそうになった。
「やらなー、ナオ。きったにぇーぞー。」
「ご、ごめん・・」
すかさず口を覆った手に飛び散ったご飯を、おしぼりで拭った。