異変-2
岩井の長大なペニスが根元まで入ることがとても信じられない。指だけでも苦しいはずなのに。岩井にどれほど惨い調教をされたのだろう。田倉に肛門を与えていたこともショックだった。妻が悶絶する姿に義雄はガラスを叩いて絶望の涙を流した。
「おぉ……おぉん……」
嬌声ともいえる声と共に身もだえ、奈津子は自身の体を岩井に預けきっていた。股間をまさぐる岩井の指先が濡れて光っている。
ミチャミチャと卑猥な音を聞かせ、リズミカルな出没運動に変化していった。太ももが自分で生み出した体液で濡れて光っている。奈津子は髪を乱した。
長時間ペニスが萎えないどころか、勃起力が増している気さえする。
――この男は化け物だ。
ワンピースの中に手を入れて肌をまさぐった。背が見えるまでまくり上げ、重力に引かれた乳房を握りしめる。その瞬間は間近なのだろう、岩井の口がわずかに開いた。
そのとき、突然、電話の呼び出し音が聞こえた。
ヘッドボードにある電話機を振り返った。その岩井の顔に苛立ちが浮かんだ。一瞬迷ったようだが、引っ掻くように乳房から手を離して受話器を取った。そのまま奈津子に覆い被さり片腕をぐるりと腰に巻き付けた。受話器を耳に当てながらもストロークを止めない。先端まで抜き去り、剛毛ごと根本まで挿入する荒々しい動きだ。
「あはんッ……はぁんッ……」
絶え間ない奈津子のよがり声の中、パン、パンと肉の音を響かせ、岩井は相手と話している。田倉のケータイに電話した時のことを思い出した。田倉もこんなふうに奈津子を抱いていたのか……。
「そうか、分ったのか。さすがだな」
深々と差し込み、腰で円を描く。
「ん、どういうことだ」
険しい声。不意に動きを止めた。眉間にしわを寄せ、受話器を握り直した。ペニスが中途半端な状態で止まっている。奈津子はシーツを握りしめ顔を伏せている。息は荒い。岩井が果てたと思っているのだろうか。
「なに!」
岩井がいきなり声を荒げた。岩井の緊張を感じたのか、奈津子が身じろぎする。だが振り向くことはなかった。ただただ気怠そうだ。打ち込みを待っているふうにも見えた。
絶句した岩井は腰を引いたが、伸びる括約筋がペニスにまとわりついてくる。汚いもので押しやるように奈津子の尻を押した。抜けたとたんペニスは芯を抜かれたようにだらんと垂れた。
己の股間に視線を落とし、幽霊でも見たような顔で奈津子に視線を移す。後ずさる姿には、力で女を服従させていた尊大な態度は消え失せていた。慌ててふんどしの中に萎れたペニスをしまい込み、岩井はよろけるように部屋から出て行った。まるで年老いた老人のように。
政治生命を絶たれるような重大な齟齬が生じたのだ、と義雄は思った。金の問題かもしれない。岩井の家族に何かあったか、もしくは医者からの余命の告知の可能性もある。もしかしたら今のこの状況が公になったのだろうか。いずれにしても自業自得であり、地獄のような状況から解放されたことに安堵した。
両足をそろえてひざを折り、くしゃくしゃになったワンピースを気怠げに直し、自分の姿を鏡で見たくないのだろう、こちらに背を向けて横たわった。出て行った岩井を振り返ることもなかった。岩井のおかしな挙動は奈津子は目撃していない。
奈津子はレイプされたのだ。岩井の暴力におびえ、したくもないセックスだったに違いない。田倉に開発されていたとはいえ、アナルコイタスで快感を得ていた事実はある。あれだけ体をいじくられれば誰だって……。そう考えてみたが、胸に押し寄せるのは虚しさだけであった。
顔をあげ、鏡を見ると振り返った奈津子と視線が合った。その唇が「助けて」と動いた。全身の毛が総毛立った。