5,-1
《お早う。今晩暇なら、付き合ってくれないか。魚の旨い店、予約しておく。》
志織が出社してPCを開くと、次長からのメールが届いていた。簡潔だが、一方的なメール。しばらく考えて、返事を書く。
《パワハラとセクハラは退職金でませんよ?それでよければ、前向きに善処致します。》
「じゃ、乾杯。」
居酒屋の個室で差し向かいに座り、生ビールのジョッキを合わせる。
「美味しいですね、ここ。」
「そうだろ?今度彼氏と来たら?」
「やめてください、そういう言い方…。あの、これ。」
いたずらっぽい笑いを浮かべた次長の顔に言い返しながら、志織はバッグの中からきれいに畳んだハンカチを取り出しそっと差し出す。
「お、洗ってくれたのか。ありがとう。」
ビールを飲み、美味しい魚を食べ、何気ない会話を交わしながら、掘りごたつの下で、足と足が触れる。そっと足を引くと、じゃれ合うように足が追っかけてくる。やんちゃな子供をたしなめるように、志織は自分の足で次長の足を押さえている。
「結婚は?」
「いえ、まだ…。」
「そう。まだ早いよな、25だし。」
「仕事も辞めたくありませんし…。次長は?」
「1回した。で、逃げられた。」
「逃げられた?」
「ああ、もう結婚はまっぴらだな。」
店を出て、二人で肩を並べて夜の街を歩く。ほろ酔いで上気した頬に、夜の風が心地いい。他に人気のない夜の神社は、藤棚が見事な花をつけている。
「きれいですね…。」
「タバコ吸っても、いいかな?」
「え…。」
隅のベンチに腰掛け、タバコに火をつける次長の隣にそっと腰を下ろす。次長の手が私の肩に掛かり、引き寄せられる。しっとりとした夜の空気の中で、私の胸の鼓動が早まっていく。ベンチの上で上半身を折り曲げた私の顔の前に、次長は自分の手でペニスを取り出す。次長の手が私の頭を引き寄せ、私の唇にペニスをあてがう。そのまま、次長の指がペニスをしごき始める。ペニスが充血して来たのを唇で感じる。どうしていいのか分からず、私は唇を熱いペニスに触れさせたままじっとしている。次長に上から頭を押さえられる。私は、そっと唇を開き、次長のペニスを受け入れていく。次長の手が私の頭をゆっくりと動かし始める。硬いペニスの先を私の舌になすりつけるみたいに。
「上手上手。」
頭を撫でられながら、また褒められる。キスもしたことのない相手に、職場の上司である男に、性器をしゃぶらされている。私の意思に関係なく、私の意思なんかどうでもいいみたいに。口の中を次長のペニスが満たしている。充血した、熱いペニスを舌に感じる。タバコを吸い終わった次長の手が、私の身体をゆっくりと引き起こす。さっき渡したハンカチで私の唾液を拭ったペニスをしまい、そのハンカチを私に渡してくれる。受け取ったハンカチをそっと唇の端にあてる。
「じゃ、帰ろうか。」
私はそのハンカチを手に持ったまま、また次長の背中を追いかける。
「今日は彼氏と約束あるの?」
横に並んだ志織に、次長がそっぽを向いたまま声をかける。
「いいえ…。」
「じゃ、今から俺の部屋、来る?」
(…どうしよう…でも、次長の部屋見てみたい…どんな部屋に住んでるんだろう…)
志織は「はい」とも「いいえ」とも返事が出来ず、ただ黙って次長の隣を歩く。