まことの筥-12
唐崎の魅惑の場所とは違い、無理強いされた侍従の体の中は硬く凝っていた。しかし己の悪行のために放たれる美しい女の無念の声に悦びを得た岩瀬は、もどかしげに吼えると、誰の許しも得ていないのに怒張を震わせて、撒き散らしていたしぶきとはおよびもつかぬほどの毒が溶け込んだ白濁を侍従へと注ぎ込んでいった。
――かくて侍従は毎夜のごとく塗籠の中に呼ばれることとなった。たとえ月の障りで体が思わしくなくとも、侍従は姫君に召し出された。不調を理由に時平に暇を願い出たが、姫君が許さなかった。本院を罷らせてしまったら、侍従は二度と戻って来ないだろう。姫君はそう直感していた。
そうしている間にも、姫君は女童に扮して平中の取継を愉しんでいた。平中が書いた文……侍従を崇め奉った思いが綴られた文を燈台の元に照らしつつ、目の前で髪を振り乱して姦される侍従を見ていると、この美しい女も、あの美しい男も我が手の内にある優越感が姫君をこの上もなく心地良くさせた。
女童が困った顔で姫君を頼ってきた。
外は組紐のような雨が降り、雷轟おどろおどろしく稲光が空に瞬いていた。平中が誰も出歩かぬような空の下、やってきたのだ。
姫君が平中の前に出ると酷い有様だった。狩衣が雨に濡れて体に張り付き、姫君から渡された布で車から対へ入ってくる間にも足元に弾ねた泥を拭いつつ、
「こんな日にやって来たとあっては、あのお方もお心を溶かされるに違いない。取継を頼むよ」
と満足げに独りごちた。確かに自分ならば、こんな日に逢いに来てくれたとあっては嬉しく思うだろう。鬢の毛から雫を滴らせている平中は艶めかしく、姫君の心を余計に妬ましくさせた。
「……今はまだ人も起きているので見つかってしまいます。暫くは身を隠しておいてください」
姫君はそう言って、平中を局の畳み戸と壁の間に導いて身を隠させた。平中は何度も「頼むよ」と言って、大人しく従った。
腹の底に恨念を抱えたまま姫君は対に戻り、まだ早い時間だったが塗籠の中に皆を招集した。最後に侍従が項垂れて入ってくる。もう何度も姦したにもかかわらず、岩瀬は目を血走らせ、小鼻を膨らませて侍従を抱き寄せた。燈台を手許に置き、仰向けに寝転ばせた侍従の膝を大股に割り、単衣の袷を打ち払うと中から覗き見える侍従の白肌へと顔を埋めた。媚畝を開き、顔を出す花弁へ音を立ててしゃぶりつく。観覧する女たちは、侍従の脚の間から鳴るちゅうちゅうとした啜り音に顔を顰めつつ、しかし佳麗な女房が下卑た男に体を貪られる姿を淫ら顔で眺めていた。
相変わらずの苦悶の呻き声。泣き濡れる瞼に手の甲を押し当てて耐えている。しかし痴戯を重ねるごとに、侍従の面貌が変わってきているのを姫君は見逃さなかった。岩瀬に顔じゅうを舐め回されて、白粉が乱れた下から暴かれた頬の赤みが増している。悲痛な声を漏らす紅い唇も涎に濡れて灯芯に揺らめく炎を浴びて光っている。よくよく聞いてみると、彼女の声は鼻づまったように甘く爛れて、奮いつく岩瀬の粗野な所業に紛れてはいるが、秘門に吸い付かれる度に腰がくねっていた。
侍従は肉体の苦痛のみに苛まれているのではなかった。肉体に悦楽を渦巻かせ、しかしてそれが岩瀬のような男からもたらされたことが羞しく、あさましい我が身を嘆いていた。邪淫に顔を歪めた岩瀬が「もう突っ込んで腰を振りてぇですよ」と露骨に唐崎に伺って彼女を不快にさせ、姫君の御心を計ったのちに頷くと、侍従を軽々と持ち上げて屹立した肉槍の上に降ろして貫いていく。その一際膨らんだ切っ先が熟果へ押し入った刹那、侍従は高い声を上げて、忌むべき岩瀬の肩にしがみついて腰を慄かせた。姫君にはそんな侍従がますます美しく見えてくる。