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悪徳の性へ 
【学園物 官能小説】

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〜 個室(33番) 〜-2

「まずは名前から聞かせなさい」

「……」

 一度心が冷えてしまうと、自然に口を噤んでしまう。 昔の人がいった『雄弁は銀、沈黙は銀』な通り、下手に何か言って揚げ足をとられるのが目に見えている。

「……まさかとは思うけど、ずっと黙ってるつもり?」

「……」

「ふぅん。 わたしは『名前を聞かせろ』っていったんだけどな。 先輩の命令に逆らうんだ?」

「……ぅぅ」

 そういわれても、私は何もしゃべれない。
 そもそも学園入学時に自分の名前は捨てさせられた。 本当は『岩井(いわい)恵子(けいこ)』で一生過ごすつもりで、大切にしてきた私の名前。 それなのに学園は私の名前を奪いった。 『岩井恵子』を勝手に『源氏名』に貶め、二度と自分の名前として使わない誓約をとった上で、『33番』なんて人をバカにした記号をつけてきた。 
 である以上、私自身は33番以上でも以下でもない。 教えるべき名前がないのだ。

 ピシッ。

 目を逸らす私の足許を黒い鞭が打つ。

「もっかい聞くわよ。 名前は何?」

「……33番です」

「そうじゃなくて、源氏名。 惚けても面白くないから」

「うぅ、それは、その……言えないです」

 適当に『幸子』です、とでもいえばいいのかもしれない。 この場を切り抜けるだけなら、誤魔化すことはできるかもしれない。 それでもウソはつきたくないし、名前がないなんていってしまえば自分で自分の過去を否定することになる。 結局私には、正直に答える以外思いつかなかった。
 
「わお! マジでいってんの、それ?」

 素っ頓狂なトーンだった。 ムチの両端を搾りながら、目をパチクリさせる先輩。

「すごいね貴方。 初っ端(しょっぱな)から先輩に逆らう新入生なんて、あたしが知る限り初めてかも。 いっとくけど、寮のシキタリやら規則やら、そういうのは纏めてあたしから教わるんだよ? つまり、あたしが臍をまげちゃったら何にも教えて貰えないんだ。 確かに貴方がちゃんと規則を守れなかった時は連帯責任であたしも怒られるわけだから、教えないわけにもいかないんだけど、そこまで見越して反抗してるってわけか。 うっわ、こりゃ将来が楽しみだ」

「そ、そんなつもりじゃ……」 

 まくしたてられて、何もいえなくなる。

「つもりもなにも、そういうことでしょ。 将来っていっても、そんなに先の話じゃないよ。 明日自分がどうなるかってこと。 まさか先輩に逆らうなんて寮の大原則を堂々と破っておいて、ただですむとは思ってないでしょうね」

 パシイ。

 握ったムチを一度たわませてから再度張る先輩。 

「せっかくだから教えたげる。 寮の規則を偶然破った子は、直属の先輩と一緒に副寮長から叱られるんだけど、自分から破った子は副寮長を一息に飛び越えて、Aの先輩方に呼ばれるの」

「うぅ……」

「そこで事情を聴かれて、いろいろあって、大抵は指導があるわけよ。 副寮長の指導っていったら、一晩中廊下に立たせるとか、一週間鼻フックとか、排水溝に埋められるとか、さっきの食堂の額縁みたいに半分遊びみたいなものなの。 そりゃイヤだけど耐えられるわ。 だけど、A連中の指導は全然違う。 A連中の指導ってどんなもんか、新入生の貴方に想像できる?」

「っ……」

 ふるふると、私は首を左右した。 というよりは胸が締め付けられて、言葉にならず、そうするより他に応えようがなかった。

「あのね。 Aのやつらの指導ってね。 すっっっごく――」

 先輩は上目遣いでこちらを覗き、怯えていることを確認したのだろうか、不適に微笑むと、

「――い・た・い・の」

 私の反応を確かめるように、あるいは楽しむように、一語ずつ区切って言葉を結ぶ。

 痛みと聞いて真っ先に浮かんだイメージは、B33番先輩が握る鞭だ。 2号教官も鞭やスティックで私たちを叩いた。 合宿でも数えきれないくらいぶたれたが、どの打擲もじーんと痺れるくらい痛かった。 ビンタも大概な痛さだ。 往復ビンタで左右を張られようものなら、頬をはられる衝撃と音で、束の間意識が遠ざかるくらいだ。 Aグループの指導が痛いということは、鞭やビンタで虐められるのかもしれない。

 なんて、私の浅はかな想像はあっさりと先輩に覆された。



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