たぎる-13
(13)
放出が終わって離れようとする正彦を木綿子は抱き寄せ、脚を絡ませてさらに密着した。膣を抉った硬度は衰えていたが肉棒の挿入感は保たれていて締めると弾力がある。
(いま、夥しいこの子の精液が満ちている……)
そう思うとしばらく繋がっていたかった。抜けば液の大半は流れ出る。少しでも長く、留めておきたいと思った。それは正彦から放たれたものだから。……
むろん安全日であることを慎重に確認した上で受け止めたのだが、正彦の命を抱いたような湧きあがる感動があった。
胸が熱くなっていた。込み上げるものさえあった。受け入れた精液よりももっと鮮烈な正彦の言葉……。
(あたしの、名前を呼んだ……)
たしかに、射精の瞬間、口走った。
(それは、あたしを女とみているからだ……)
なぜ?いつから?どうして?……。
「正彦……」
「……お母さん……」
正彦は目を伏せたままだ。
「いまは、お母さんじゃない。そうでしょ?」
正彦は小さく頷いた。
(あ……)
ペニスがぬっと奥へ進んできたのである。
(硬くなってきた)
「名前、呼んでくれたのね」
正彦は黙っている。
「呼びたくなった?」
伏せた瞼が戸惑うような動きをみせた。
(可愛い……)
胸が締め付けられるほど愛しい。
表情は揺れていても『男』は徐々に漲ってきている。
「どうして、呼びたくなったの?」
いまさらどうでもいいことだが、困惑した心の内を覗きたくなった。
「教えて、正彦」
一気に膣内に圧迫が広がって完全勃起したのはこの時である。
「お父さんが、呼んでた……」
「え?……」
すぐには意味がわからず、間もなくはっとして、顔が火照った。
夫が子供たちの前で『木綿子』と名を呼ぶことはない。
『お母さん』……。木綿子は夫を『お父さん』と呼ぶのが習慣であった。
(夫があたしを木綿子と呼ぶのは……)
セックスの時だけ……。
つまり、行為の声を聴かれた……。
この一戸建てに引っ越したのは5年前。それまでは集合住宅だった。部屋は別とはいえ隣室。子供が大きくなるにつれ夜の営みは声を押し殺しての交合であった。それが広い家に移り、子供たちは2階、開放感に浸ってセックスも増えたものだ。
(かなり大胆になっていたかもしれない)
「いつ頃、きいたの?」
「中学の頃……」
「そう……」
性に目覚める年頃。子供の成長を深く考えていただろうか。
その頃、それまで堪えていたものを弾き飛ばすように求めたように思う。それは夫も同じだった。
(配慮が足りなかった……)
「きいたのは、1回?」
「……何回も……」
(ああ、恥ずかしい……)
さらなる事実に木綿子は胸が苦しくなった。
「お姉ちゃんも一緒に……」
(!……)
紗枝と正彦が2人して寝室のドアに耳をそばだてている光景を浮かべて、木綿子はさらに胸を絞った。絞った胸は熱く燃え、疼いた。悔いはあったが熱に溶けていった。
(子供たちを狂わせたのか……)
2人に、たぎる想いを植え付けてしまったのだろうか。
(ああ……)
もう、どうでもいい。……
木綿子は正彦を抱き寄せ、頬擦りをしながらペニスの実感にのめり込んでいった。
たぎる……滾る……たぎる……。
理屈の届かないことがある。そういうことがある。
(この家族は、崩壊してはいない……。心の赴くまま……感じているだけ……)
陶酔の中で木綿子は思っていた。