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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-5


和音が戻ってきたことで、休憩が終わり、練習再開となった。
各々、自分たちの練習に戻る中、和音は心ここにあらずといった感じで落ち着きがない。

「・・・和音?」

自分へと問いかける奏多の声も、まったく聴いていない。
和音にホルンを教えてもらうことになっている奏多はどうしようもなく、ただどうしたものかとため息をつくばかり。

そんな奏多には気が付かず、和音の頭にあるのは先ほど見た写真だけだった。
あの写真に写っていた自分を見つめる男の子は一体誰なのか。
そのことばかり気になって仕方がない和音。

「誰も、わからないよね・・・」

誰に言うわけでもなく、ただぼそりと呟く。
ため息を吐こうとしたとき、自分をじっと見つめる奏多と視線が合った。
その時に、やっと気付く。今が練習時間だということに。

「ご、ごめん・・」

慌てて、奏多の正面に置いた椅子に座る。
自分の世界から戻ってきた和音に、少し安心した奏多は軽く返事を返してから楽器を取り出した。
その様子を見て、和音はすっかりいつもの調子を取り戻して奏多に声をかける。

「まだ楽器は無理。」
「・・ちっ」

和音の言葉に、心当たりがある奏多は舌打ちをしてからホルンをもう一度ケースにしまった。
あからさまに悔しがる奏多を見て、和音はため息をつく。
しかし、悔しい気持ちも分からなくないので、条件をつけることにした。
―マウスピースの音が一音でも出たら、本体のホルンで吹く。
この条件で少しでも、奏多が音を出せるような状態になれば。そう思って、提案する。

「良いのか!」
「まあ、本当ならまだ全然足りないけど・・あまり制限はつけたくないし」

和音の提案に、喜んだ表情を見せたのは少しだけだった。
何かを考え込むような顔をした奏多に、和音は首を傾げる。

「足りないなら、まだいいよ。」
「・・え?」
「ホルン、吹くのに足りるまでやるよ。妥協なんてしたくねえし」
「・・・」
「あんまし、甘やかさなくていーよ。」

そのセリフに、和音は驚く。
奏多の性格から考えても、根は上げなくてもそろそろホルン本体が吹きたくて仕方ないはず。それは間違っていないと思う。実際、今本体を吹くにはまだ足りないと言われて悔しがった。だからこそ、奏多のやる気を削がないためにもの提案であった。
なのに、まだいいとの言葉。挙句、甘やかさなくていいと。
驚いている和音をよそに、奏多はマウスピースでの練習を始める。
休憩前と比べ、はっきりと音が出るようになっていた。

「・・・・」

黙々とマウスピースの音を出す奏多を見ながら、和音は戸惑う。
奏多が、こんな人物だったのかと。
戸惑いながらも、奏多の出す音を聴く。絶対音感で聞き取る和音の耳には、まだ完璧ではないが、それでも低いドの音が響いた。
当たり障りの音ではなく、ちゃんとした音階の音。

「(・・・出るじゃん。音。)」


心配した自分が馬鹿みたいではないかと思う。もうホルンで吹いてもいいかと考えたが、妥協をしたくないと言い切った奏多の要望に応えるべく、自分のマウスピースを取り出して奏多の出した音の次の音を出して誘導する。
音を出せていることが嬉しいのか、奏多は少しニヤケた顔をしながら和音の音に続く。
そうして二人でしばらく吹き合いをし、ちょうどソの音が出たところで和音が音を止めた。
突然止められたことに驚きつつ、まだ吹きたいようなムッとした表情を見せる奏多を見て、

「・・ホルン、出して」

そう小さい声で呟いた。
なぜかそれを言うのに気恥ずかしさを感じ、視線を合わせることが出来なかった上に少しぶっきらぼうな言い方をしてしまった。
言った後、何も反応がないことに少し冷たかったかなと後悔していると、奏多が勢いよくガッツポーズをした。

「よっしゃ!」

そんなセリフを叫ぶくらい、嬉しさが見て分かる奏多を見て少しばかり驚いた。
意気揚々とホルンをケースから出す、喜びを隠せない奏多に和音はふっと小さい笑みを漏らす。
少し可愛いなと思った時、ハッとする。明らかに奏多に絆されている自分を。
絆されていることに気づくと、もうため息しかつけなくなるが、喜ぶ奏多を見た今はあまり嫌とは感じられなかった。





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