3.「また来たよー」-1
3.「また来たよー」
週末の夜に、鎌倉駅まで沙織を迎えに行きます。
「また来たよー」
沙織と手をつないで、海方面へ歩きます。
この子ちっさいな。
「世田谷、だっけ?住んでるの」
「うん」
「家事手伝いしてるんだっけ?」
「そう」
「実家、何やってるの?工場とか?」
「ウチ、お寺ー」
「へっ?ナンマイダーの?」
「うん、ポクポクポクの」
なんか、彼女にするには面倒そうだぞ。
「卒業してすぐだから、
まだ、仕事任されてないけど」
「えーと、四年制大学卒業したんだ」
「そう。仏教系の、幼稚園からの一貫女子校。
千晶ちゃんみたいに、
女の子同士で付き合ってた子、結構いたよー。
友達でもいるもん」
なーるホド、それで抵抗ないのね。納得。
「お兄ちゃんが住職だよ。
京都にある小僧さんの学校で、
住み込み修行をしてました。ナームー」
「あらー。それは息抜き出来ない学校だねぇ。
腐女子が喜びそうなシチュエーション…」
「なんか、仲良しで山を降りて、
キャバクラ入ってるとこ見つかって、
すごい怒られたみたい」
「ダメじゃんw」
「でもお兄ちゃん、
自分は住職になる運命が決まってるから、
沙織は自由にしなさい、って言ってくれる。
すごい優しいよ」
「いいお兄さんだー」
「千晶ちゃんて、なんのお仕事してるの?
サーフィン?」
「そりゃ趣味だって。
この服のメーカー知ってる?」
着ているフリースジャケットの刺繍を、
沙織に見せます。
「知ってる知ってる、
アウトドアブランドで有名だもー。
友達でも好きで着てる子いるよ。
高いからあまり買えないって言ってた」
「ここお店ね」
ちょうど店先を通りかかります。
「わー、千晶ちゃん店員さんなんだー。格好いい」
「いやいや、リペア部門。私、修理する人。
仕事場はもう少し先」
「へー、裁縫仕事だね。専門職だぁ。
お洋服のメーカーで修理するなんて珍しいね」
「うん、永く使って貰うためにね。
そういう姿勢が好きで勤めているんだ。
黙々と裏方作業だけどね」
「ううん、そういうのカッコいいよ。忙しいの?」
「年間に数千から数万件のオーダー」
「ええっ⁉︎そんなにあるの?大変だぁ」
「正直『捨てろ!』ってのもくるけど、
その人にとって、
かけがえの無い思い入れがあると思うと、
頭をヒネリヒネリ作業しますよ」
「あははー。えらいえらい」
結構楽しいな。
「明日は何する?」
「朝のジョギングをしたいです!」
「へぇ、私もするよ」
「ほんとー?」
「波乗りのトレーニングでさ。時々ね」
「私、毎朝ー。1時間くらいするー。
ずっと子供の頃からしてるよ」
「偉いなぁ。道理でムダ肉無いワケだ」
「気持ちいいし、ご飯美味しいし、
お金かからないし」
「そこですか」
マイペースで変わっているけど、面白い子です。