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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第二話-8


 誰かに名前を呼ばれた気がして、孝顕は床から視線を上げた。視界の中で佐伯が窓を背にして立っている。すでに身なりは整え終わり、ペンケースや日誌を手に抱えていた。
 窓の外はかなり暗い。オレンジ色の夕日の名残が遠くに見える程度だ。
「大丈夫? 夜刀神君」
 佐伯は気遣わしげに呼びかけたが、少年は顔を上げたままで返事をしない。足を伸ばし背凭れに左腕を引っ掛け、だらしない格好で椅子に座っていた。黒板の右上にかけられている時計を確認するとのろのろと立ち上がり、だるそうに乱れた制服を整え始める。
 佐伯は少年の様子を見つめながら内心で苦笑した。

 二人の間に意思疎通はない。
 常に一方的。
 言われるまま、求められるまま、人形のように少年は受け入れ、あるいは吐き出す。
 身体だけの爛れた関係を求めたのは佐伯だ。だから全て納得ずく。けれど時折、それだけでは物足りなくなるのを感じていた。全くもって身勝手な話だった。
 佐伯の口元が皮肉気に歪む。
(酷い大人よね)
 かといって、この少年を解放してやるつもりも無い。
 少年を前にすると、今まで知らなかった暗い欲望が沸き上がる。それに身を浸す事は、かつてない強烈な興奮と快感を伴った。

「あ、先生、さようなら」
「おう、まだいたのか夜刀神。気をつけて帰れよ〜」
 廊下に出た所で、孝顕は通りすがりの男性教師に爽やかに挨拶をした。数分前の荒んだ雰囲気は全くない。別人かと思う程穏やかに笑んでいる。 

 麻薬のようだ。

 呆れるほど見事に自分を使い分ける少年の背中を見送りながら、佐伯は思った。

  ◆  ◆  ◆


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