1.浜辺の出会い-1
1.浜辺の出会い
(あの子、まだ居る)
春の鎌倉の浜辺は、まだ人影はまばら。
私は海から上がって、
サーフボードを抱えて声をかける。
「あなた、中…高校生?家出とか危ないよ」
「私、24歳です」
「同い年!?ごめんなさい!」
「いいんです、よく間違われますから。
男に捨てられて、子供に間違われて、
私ザンネン過ぎる。泣く。ウッ、グスン」
わぁー。地雷踏んだー。
おかっぱ頭に童顔で、肌に透明感があるから、
中学生くらいにしか見えなかったー。
「ご飯食べに行こうよ!
座ってるだけでも、お腹は減るでしょ?
私もう、お腹ぺこぺこ」
「グスン。見てたんですか?私のこと」
「うん。
時期的にちょっと早いけど、
変なのに声掛けられる子、いるから。
地元としては声掛けくらいはね」
「ご飯行きます。おなか空きました」
「シャワー浴びるからウチ寄って。
すぐそこだから」
サーフボードを抱えて、国道134号線を渡ります。
「背、高いですね」
「スーツ着て海に入ると男に間違えられるよ。
ショートにしてるしね。ウチ、ここね」
「わっ、本当に近い」
「ボロ屋だけど、
ここなら直ぐに海に出られるでしょ?
サッと浴びてくるから待ってて」
歩いてすぐの定食屋に入ります。
「彼氏に逃げられたんだ?」
「お金とかiPod とか、
借したまま返してくれないし、
『結婚するまでダメ』って言ったら、
お尻の穴に押し込まれて、汚れたって怒られたし、
チンチクリンの足りない子ちゃんとか、
ヒンヌーとか言われるし、私バカなのかなぁ?」
「ひっ、どいヤツだね」
サイテーヤローだ。この子は悪くない。
「男の人はすぐ怒るし、唾吐くし、
ガンシャとかコーナイシャセーとかもうヤダなー」
思い出したのか、涙目になってます。
カワイソ過ぎる。
良く見ると化粧してないだけで、
色白で肌綺麗で、性格良さそうな表情してます。
子供によく間違われるのは分かる。
まぁ、眉くらいは整えないと。
食べ方キレイで、躾のいい子です。
悪い子では無さそうです。
「ウチ泊まってきなよ、明日、日曜で休みでしょ?
今夜はお酒でも飲みな、
一人だと落ち込む一方だよ」
同い年なので気安いです。
「いいの?」
「大丈夫。私も独り暮らしだから」
「寂しかったし嬉しいな」
「私、千晶」
「沙織です。
千晶…。千晶ちゃん。綺麗な名前だね」
人懐こいなぁ。これはダマされる。
浜辺で妙な子を拾ってしまった。
ま、仕方ない。
コンビニでサワーとつまみを買います。
沙織は替えの下着を買います。
戻って、部屋に上がります。
「ボロ屋ですけどドーゾ」
「あれ?広いんだね」
「友達と二人で借りたからね。結構前になるけど。
沙織、シャワー使って。
私、板とスーツの水洗いしてくるから」
「うん」
「これタオルと着替え。
私のだから大きいけど、いいでしょ?」
「ありがとう」
部屋に戻ると、既に出来上がってる。
「にゃはは!傷心旅行で上機嫌!」
「良かった良かった」
「あ、メガネしてるー。
千晶ちゃん、普段コンタクトなの?」
「水泳部で、
ゴーグル越しに水中見てたら目が悪くなった」
眉根を寄せてみせます。
「それで肩幅有るんだね。
メガネすると知的でカッコイイなぁー。
美人は得だなぁー。
千晶ちゃんも飲んで、泊まらせてもらうんだから」
「じゃ、甘えて」
波乗りして疲れてたので、すぐにボンヤリします。
「明日は鎌倉を歩こうよ、案内するよ」
「おけおけ、ラリホー。
千晶ちゃんてカッコイイなー。美人だなー」
「ヨッパライ。
私、海入って疲れたから、もう寝るよ。
布団は引いておくから」
「あい、あい」
朝、目が覚めると、
沙織は私の部屋の布団に潜り込んで、
一緒に寝てました。
ちっこいな。
「ごめん。寝づらかったね」
「ううん、良く寝た。疲れてたし」
「千晶ちゃん体温高いね」
「あっ、寒かったかな?」
「千晶ちゃんの布団に入ったら、
ちょうど良かったよ」
猫みたいな子です。
「人が多くて、すごい疲れたですー」
部屋に戻って、沙織は畳にうつ伏せます。
「朝からアチコチ見て回ったからね」
「千晶ちゃん脚もんでください」
「はいはい」
意外と図々しいな。
またがって、脚、腰、背中を指圧します。
肌がスベスベで綺麗。意外に体、締まってるな?
「うー、気持ちいー。
千晶ちゃんが一緒に住んでたのって、女の人?」
「うん、分かる?」
「部屋に全然男の人の感じがしないし、
なんか一つくらい残るもんだよ」
意外に鋭い。
「千晶ちゃん、
その女の人のこと、好きだったの?」
思わず、沙織の腰を押す手が止まります。
「あー…、うん。気持ち悪い?」
「ううん、納得って感じ。
千晶ちゃんカッコイイし、誰からも好かれるよ」
抵抗無いんだ?
「きっとよくこうしてたんだね、上手だもん。
千晶ちゃんのことだから、大事にしてたのに、
どうして上手くいかなくなったの?」
「自分の事で忙しくなったら、男に盗られた…」
沙織は起き上がって、
ショルダーバックを引き寄せます。
スケッチブックと筆入れを出して、
ローテーブルで何やら描き始めます。
「あれ?これ私だ。すごい、上手!」
「私、美術部だったの。
泊めてくれたお礼と言っては安いけど」
「あらー、美人に描いてくれて」
「そのままです」
私を真剣に見詰めます。
「ちゃんとした絵も描くけど、
空想しながらマンガ絵を描くのが一番好き!
お金かからないし」
「あー…。それは男に捨てられるカモー」