恋人にしたい-10
人目については家宅不法侵入の現行犯でとり抑えられてしまうだろう。
あたりを見回して一気によじ登った。
ぶら下がってる時点ではまだ、いざとなれば飛び降りて走って逃げ切れる状態にあった。
ところが完全に策にかかるともう、一つ目の棘はすぐ真近で不安定なまま、なんとかこれをやり過ごす。
すぐ上にふたつ目の棘が鋭く突き出していて、もうちょっとのところで頭を串刺しにするところだった。
足の置き場もなく、手のつかみ所もない。
かといって断念してしまえば間違いなく下の棘にあたって胸を深くえぐられてしまうだろう。
もう、後もどりできず。なにがどうでも登りきるしかないのだ。
こんな事してる自分をことごとく悔やんだ。
体重のバランスをうまく分散して、体の4分の1をうまく引っ掛けるようにゆっくりと移動した。
もう、目的は何だったとか人目がどうとか、そんな事はとてもじゃないけど気にしてはいられなかった。
どうにか真上に差し掛かった時、力尽きて足を滑らせた。
滑った方の足が内側だったので僕はベランダに勢いよく転げ落ち、ベランダにあった資源ゴミのペールをなぎ倒す。
きゃっ!という声がして、同時にベランダが開け放たれ「おいっ!」というあの彼の怒声が響いた。
そこにたまたま駐車場に車が入ってきて、騒ぎを聞きつけた初老の男性が携帯を手にして怒鳴りつけた。
「空き巣かっ!」
「いえ、違います。違います!」
かずささんはともかく「あなたは帰って」と彼を玄関まで追い立てた。
男は結びかけのネクタイを締め直しながら、何か言いたげに押し出される。
それからゆっくり戻ってきて、黙って僕を見ている。