ノースポールは風に揺れ-1
人生で初めてのキスから、まだたった三日しか経っていないのに、私は佳那汰君とこんな場所でこんな事をしてる。
きっと、経験豊富な人ならこんなシチュエーションさえも楽しめるんだろうなぁ。
だけど、何もかもが未経験な私には楽しむなんてとても無理だよ。
佳那汰君に触れられ、求められる事は決して嫌じゃないの。だけどこれ、なにかが違うよ…。
無意識に自発してしまう掠れた嬌声ですら信じられなくて怖いのに、成り行きに任せて、ただ、佳那汰君にされている行為に流されているだけのような気がして。
ここに私が居ないみたい。心の底が寒くて寂しくなった。
「やっぱり…やだよ…こんなの…、なんか違う…」
目の焦点が合わずにぼんやりと霞む白い天井を仰いで呟いたら、目の際から涙が落ちた。
そんな私に気付いた佳那汰君ははっとして、
「こうせいちゃんごめん…」
私の身体から離れて苦い顔で小さく呟いた。
「私こそごめんね…融通も気も効かなくて」
乱れた身なりを整えて、
「ごめん…少しだけ外の空気吸ってくるね…ついでに飲み物買ってくるよ」
「待って、僕も――」
「ごめん。少しだけ、一人がいいの」
一人で頭を冷やしたい。そう思ってロッカールームを出た。
従業員出入口から外に出ると、店の正面の賑やかな表通りとは違って、静かな裏路地が広がり、店の道路向かいには小さな雑居ビルが建っている。
そこに設置されている自動販売機で冷えたコーヒーを二つ買って、店の出入口に置いてある木製のベンチに腰を下ろして大きく息を吐いた。
「…ダメだなぁ…私…」
なんだか自嘲して笑いたくなった。
「でもさ……やっぱり嫌だったんだもん…だって…なんか怖いんだもん」
心の中で話してるつもりの言葉が、独り言として喉から落ちる。情けない。
なんでこんなにめんどくさい事を色々考えちゃうんだろ。
「好きだって思われて嬉しいはずなのに、嬉しくない…」
佳那汰君に触れられた身体。首筋、肩、背中、胸…。
まだじんじん痺れるみたいに熱い。だけどそれ以上に心が鉛のように重い。
行為を、乱れた自分を思い出したらなんだか怖くなって、両手で自分を抱き締めて項垂れた。
きっと、佳那汰君、こんな私、めんどくさいって思ったよね。
「あーぁ……」
重いため息が出た。同時に、出入口のドアが開いて、
「珍しいな、こんなとこで休憩なんて」
私を見て少し驚いた顔をみせたのは那由多だった。
嫌だな。なんか気まずいよ……。