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春雷
【女性向け 官能小説】

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ノースポールは風に揺れ-2


何をどう話せばいいかを見失って、私の頭の中は那由多と視線を合わせたくない気持ちで一杯だった。
俯いて黙りこむ事しか出来ない自分が情けなくて、涙が出そうになるのを堪えるのが、今の私に出来る精一杯の虚勢だった。

「…あいつとケンカでもしたか?」

ケンカしたほうがまだマシだったかもしれない。
そう思っても言葉に出来ずに首を横に振るだけで意思を示した私に、

「なんだよ違うのか。…ああ、ひょっとして勢いで押し倒されたとか?」

「うるさいっ! そんな事那由多には関係ないし!」

思い切り図星を指されて、思わず声を荒げてしまった私を見て、

「なんだよ。お前、あいつが好きなんだろ?」

「まだわかんないよ! どうせ私はなにもわからない空気読めないめんどくさい奴だよ!」

「佳那汰にそんな事言われたのかよ」
「違うっ! 佳那汰君はそんな事言う人じゃない!」

「だったらお前、何を怒ってんだよ…」

「男の人って皆そうなの? 時と場所も考えずに無理矢理キスしたり、せがんだり…。私の気持ちはいつだって置いてきぼりじゃないか!」

那由多だってそうだ。貯蔵庫で無理矢理私にキスして。
思い出したら、涙が落ちた。

「しょうがないだろ、好きな相手としたいもんはしたい。好きだからそういう気持ちにブレーキが効かない時だってあるもんだろ?」

「どうせ私はそういう事わからないお子様だよ! 悪かったわね! なんの経験もなくて融通が効かなくて!」

なにに、どうしてこんなに怒ってるんだろう。
わからないまま立ち上がって、私は那由多に八つ当たりの言葉をぶつけた。

「ちょ…、落ち着けって…」
「那由多なんて大嫌い! 私のファーストキス返せ! バカっ!!」

涙ながらに叫んだら、

「ヒカリ、ごめん。頼むよ、少しだけ落ち着いてくれ…」

身体が強い圧に包まれた。

「離して…。私…わた……」

さっきまで佳那汰君に肌を晒して喘いでたのに、今は那由多に抱き締められてる。なんだかそんな自分が酷く汚れてる気がして悲しくなった。

「無理矢理キスしたのは本当に悪かった。だけど、ずっと我慢して抑えてきた気持ちに嘘はつけなかった」

「私は…佳那汰君が…」

「まだわからないんだろ? だったら、俺にもまだチャンスがあるって思っていいよな?」

「苦しいよ、離して…」

きつく抱き締められて頭がぼんやりとして、顔が熱いよ…。

「ヒカリとキスしたい」

「なんでそうなるのよ!」

「したいもんは仕方ないだろ。好きなんだよ。だから自制効かないしなりふり構ってらんねえんだよ」

「わかんないよ。そんな事、私にはわかんない!」

「わからなくていい。お前はそのままでいいんだよ。なにも無理に変わらなくていいから」

こんなにも穏やかな那由多の声を聞いたのは、どれくらいぶりだろう。驚いて顔を上げたら視線がぶつかった。

「やり直していいか? 今度は傷つけずに、ちゃんと
お前とキスしたいんだ」

「キスしたって、私が那由多を好きになるかどうかわからないよ?」

「今ハッキリさせろなんて思ってない。これでも七年お前に片思いしてんだぞ? どんなに振り回されたって気持ちは変わらないからな」

強くて真っ直ぐな瞳だ。そんな那由多に心が吸い寄せられて視線が離せない。

「ヒカリ、好きだ」

囁きと同時に那由多の顔が近付いて、唇が触れそうな瞬間――

「こうせいちゃんから離れろ!!」

出入口のドアが激しい音を立てたと同時に、佳那汰君の怒声が静かな裏路地に響いた。








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