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春雷
【女性向け 官能小説】

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クロッカス-2


「…でも、佳那汰君も私とスカーフが同じ色だよ? だから余計に私、自分がいつまでも下っぱだと…」

「あの色はあいつが自分で選んだんだんだよ。つーか、お前、佳那汰と知り合いだったんだな…」

那由多が向けた視線の先には、心配そうに私を見ている佳那汰君がいた。

「…二十年ぶりに再会できたの。私、佳那汰君が好きなのかもしれない」

私は那由多にそう告げて、ひとつ頭を下げて持ち場に戻った。


キッチンが静寂を取り戻した。聞こえるのは包丁がまな板を鳴らす音と、鍋が煮立つ音だけ。
佳那汰君をちらりと見たら、まるで鼻唄を歌い出しそうな小さな笑みを含みながら、軽快にキャベツを千切りしていた。そんないつもと変わらない佳那汰君に私は安堵の息を吐いた。



戦場のようなランチタイムを終えて、ディナータイムまでの間の二時間ほどの休憩時間を佳那汰君と過ごす事が私の憩いとなっていた。

八帖程のロッカールームにはチープな黒いソファーがひとつ。以前はここでひとりで寝てた。
今は二人で座って、他愛ない事や思い出を話しては笑っている。

コックコートの上着を脱いで、Tシャツの胸元を摘まんで体に溜まった熱を逃がすように扇いで、お互いに労らう言葉を発しながら冷たいミネラルウォーターで喉を潤しながら、

「今日の佳那汰君の賄いのライスコロッケ、凄く美味しかった〜」

私は昼食の賄いで食べたライスコロッケの味を思い出して、感嘆の息を吐いた。

「そうかな…、兄貴は不服そうな顔して食べてたけど…」
そう言って苦笑いする佳那汰君を見て、

「違うよ? 那由多のあの顔は不服そうな顔じゃなくて、悔しい顔だよ」

私はライスコロッケを食べた時の那由多の顔を思い出して小さく吹き出した。

「え…? そうなの?」

戸惑った顔色で私を見つめる佳那汰君に、

「那由多はね、まずいと思った賄いは絶対食べないの。今日は完食してたでしょ? 時々難しい顔して考えながら。ああして食べてる時って旨い、くそうって悔しがってる顔なんだよ。ざあまみろ、いひひっ」

なんだか思い出したら、自分が作った賄いじゃないのに、嬉しさが込み上げてしまった。そんな私を見て、

「こうせいちゃん…兄貴の話しをしてる時は、凄く生き生きとして楽しそうだ…」

佳那汰君は少し寂しそうな顔で笑みながら、大きな手を私の頬に添えて、

「僕はいつまで佳那汰君って呼ばれるの? 兄貴は那由多って呼び捨ててるのに…」

顔が近いよ…。気恥ずかしさで目のやり場に困って頬がどんどん熱くなるのを感じて後退りしたくなってしまう。

「だ、だって…佳那汰君だって、私の事こうせいちゃんって呼んでるじゃん…」

「だって好きなんだもん。それに、こうせいちゃんって呼び方は僕だけの特別だし。かわいいよ、こうせいちゃん」

「ず、ズルいよそういうの…」

特別だとかかわいいって言われて、嬉しくならないわけがない。
だけどこういうのに慣れてないから、それ以上に恥ずかしさが込み上げてしまって、逃げ腰状態の私に、

「じゃあ、ちゃんと名前呼ぶよ。ねぇ、ひかり…」

私の名前を呟きながら、佳那汰君の唇が私の唇にそっと重なった。それだけで身体の芯が融けてしまうように力が抜けてしまう。
唇が重なりあったまま、身体がゆっくりとソファーに預けられるように倒れてく。

「んっ…、はぁ……ん…」

舌が絡みあう度に勝手に甲高い変な声が出ちゃうし、身体の奥がきゅうきゅうと軋んでもどかしくておかしくなりそうだ。
甘い軋みから逃れる為に身体を小さく捩らすと、佳那汰君の手が私のTシャツの中に入ってきて…。

「ちょ、だめだよ…それにこんな場所じゃ……」
「大丈夫だよ。少しだけだから…ね…?」

甘えた子供みたいな声で囁かれたら、強い事は言えなくなってしまう。黙って身体の力を抜いたら、ブラのホックが外されてTシャツがそっと捲りあげられて、圧迫されていた胸が楽になった。小さく息を吐いた刹那、

「んっ!…やぁ…っ…」

もどかしく疼いた胸の突起に生暖かな滑りを感じて甘い痺れが走り、思わず嬌声が喉から溢れた。

「しっ、こうせいちゃん、声出したら事務所に聞こえるよ」

「んっ――っ……っ! ぁっ……だっ…て…」

そんな事を言いながら、佳那汰君は手や舌先を私の敏感な場所に這わせて益々疼きを与えてくるから、声を殺しきれずにどうしても漏れちゃうんだよ。

「だめ…だよぅ…。佳那汰…くん…ぁあっ…んっっ!!」
「…こうせいちゃん…好きだよ…」
「ぁっ…っ……や…ぁ――!!」

胸を愛撫されて、好きだと囁かれただけで、頭がおかしくなりそうだ。それなのに心の中では更に更にと悦を求めている自分がなんだか怖かった。




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