非常階段で逃走-1
急いで寝室の扉を開けリビングを見ると彼女がいない、
玄関を向くとドアが閉まる瞬間がみえた。
「やられた！」裏切られた！
走って玄関のドアを開けると、
非常階段を駆け下りている月岡さんの後ろ姿がみえた。
「やばい！逃げられる」
靴も履かずに追いかけた。
月岡さんも必死に降りているので距離が縮まない。
どうしよう、追いつかない、
ヒョウタンも持っていない、本当に逃げられる。
僕は泣きながら彼女の背中を追いかけた。
「もうダメだー 戻すんじゃなかった〜」
足がつりそうだ。
スピードも出ない。
ヒョウタンもってないし、
起動の呪文も言ってなけど、
僕はすがるように彼女の名前を叫ぶしかなかった。
「月岡由紀奈！」
逃げる彼女は
「返事するわけないじゃない！」と言いながら踊り場に出た。
「もうお終いだぁ、ヒョウタン取りに行っても遅いじゃないか〜」
わぁああああと叫んだ時、カランっとした音と共に静かになった。
道路に出たんだ、階段から覗いても見当たらない、
どっち方面に逃げたか確認出来なかった。
「もうダメだ」
とにかく追うしかない。
体に鞭打って走りだし、
静かな階段を駆け降りていたら、突然、女の人の後ろ姿があった。
「わぁ、ぶつかる！」
ぶつかりそうになって避けると、彼女は月岡さんだった。
スーツ着てるから一瞬分からなかった。
でも何故か止まっている。
逃げたと思った月岡さんがいてびっくりしたけど、追いついた事に安堵した。
僕は息せき切りながら彼女の肩を掴み
「逃げられたかと思った……よ！？」
振り向かせると、生気がなくなっている。
魂が抜かれた様に虚ろな目で瞬きしている。
「どうなってんだ？」
足に何かがぶつかったので、見ると小さな月岡人形が落ちていた、
拾い上げて僕は全てを理解した。
「そういえば魂戻す時もそうだった、固形になったらヒョウタンは必要ないのか」
確信した。もう、月岡さんにヒョウタンを使う必要がないのだ。
「名前呼べばいつでも魂が抜けるんだ、便利だねぇ」
彼女を住人に見つかならないように、エレベータに乗せて連れ戻す事ができた。
寝室のベットの前に立たせる、
正面を見ている月岡さんの肩に腕を回し、
「なんて言うかな〜」と期待しながら頭に月岡人形を置いた。
人形はスッっと入っていき、
ガクっとうなだれる、
少しして、いきなり猛ダッシュで走りだした。
でも、目の前のベットに倒れて、ベッドカバーをつかむ。
「ぎゃ！痛い！ え〜〜！なんで」月岡さんは振り返り僕の顔を見て青ざめる。
「……裏切ったな 僕を裏切ったな！ なんでだ！」
「私返事していないのに、どうして！ ぎゃー！」
理由を言わない彼女に腹を立てた僕は、蹴ってベットから落とした。
「なんで裏切った！ 心はウソをつかないんじゃないのか」平手で叩くバシィ バシィ
「きゃー 痛い、痛い、ヤメテー もう逃げません ゴメンなさい」
何度も叩いていたら手が痛くなってやめた。
はぁ……はぁはぁ……はぁ……「なんで逃げた」
「ゴメンなさい もう叩かないで、逃げません もう逃げません」ガタガタ震えてる。
「お前、一生奉仕するって言ってたよな何でだよ。 叩かないから教えろ」
「……はい、さ 最初はそのつもりでした、リビングで着替えていたら玄関がみえたので、
気づいたら外に出て走ってました」
「はぁ？気づいたらだ？ ウソついてんじゃねーよ」
「あわわわわ、ほんとうです 本当に気づいたら外にいたんです。」
「じゃーなんで返事しなかった？」
「ああああ ゴメンなさい。返事をしたら先輩の中に戻されると思って」
「……バカかお前は、返事は関係ないんだよ、僕はいつでもお前を体と分離出来るんだよ」
「いつでもって、そんな……」目に涙がいっぱい溜まっている。
「後悔したか？」
とっさに月岡さんは土下座して頭を床に擦りつけ
「ゴメンなさい もう逃げません だから頭に戻すのだけはヤメテ下さい」
呆れた変わり様だ。
「キミがルール違反しない限り魂は戻さないよ」
「はい、ありがとうございます。」
「僕はね、心が広いから今回のことは許してあげるよ、お礼して？」
「はい ありがとうございます」深々と頭を下げてる。
スーツ来た美人の土下座っていいもんだな。
「よしよし それでは、さっきの続きをしようか？」
「はい？ 今からですか？」キョトンとした目で見上げている。
「うん、スーツ着たことだし、ムードを盛り上げてＨするんだよね」
「あ、はい…… それでは用意します」
疲れているのか、重そうに立ち上がりベットに座った。