娼館へ-2
この娼館の部屋数は、この国で吉数とされる6、そして部屋の順はとりもなおさず娼婦の順列を表している。
桃香を迎える前の順列は梨香、白娘、春香、小娘、青娘、黒娘の順だった。
そして、桃香がそこに加えられることにより、誰かが娼館から『いなくなる』のだ。
新顔の特性によっても順列は変わる、桃香は筆頭に置かれることが決まっているので、順当なら黒娘が『いなくなる』ことになるのだが、必ずしもその通りにはなるとは限らない。
新たに決められた順列は、桃香、白娘、梨香、春香、黒娘、小娘の順。
娼館から姿を消すことになったのは黒娘ではなく青娘だった、黒娘には熱心な顧客がついているが、青娘を殊更に好んだ豪農が少し前に亡くなっていたのだ。
そして小娘も黒娘の下に置かれた、極端に小柄であることが特徴の小娘は、やはり小柄な桃香に押されて需要を下げると見込まれたのだ。
梨香が順位を下げられたのもその特性が桃香とかぶるから・・・梨香の持つ技巧は全て桃香もより高いレベルで備えているのだ。
この娼館から『いなくなる』と言うことは下級の娼館に下げられると言う意味ではない、まして自由になると言う意味でも・・・。
ここの娼婦たちは本来居てはならない存在なのだ、戸籍を持たない者は勿論のこと、白娘が世に出れば医師の悪行が顕れかねない、小娘の体が成長しなかった理由も医師が投与し続けた薬にある、黒娘が男性としての性徴をほとんど備えていない理由も・・・。
そして青娘に四肢がない理由こそ決して表沙汰には出来ない、彼女がより大衆的な宿に払い下げられて一般大衆の目に晒されることは有り得ないのだ。
桃香がこの宿に連れて来られる直前、娼館の地下室では秘密のショーが繰り広げられた。
そして娼館に残った5人の娼婦たちは地下室から聞こえて来る断末魔の悲鳴を否応なく聞かされる、少しでも長く生きていたければ顧客に気に入られるように努めなければならない・・・それこそがこの宿が娼婦を6人しか抱えない理由であり、最高のサービスを提供し続けられる秘密でもあるのだ。
『次は誰・・・・?』
娼婦たちは明日からその緊張と恐怖と闘いながら、ただ男を悦ばすためだけに生きて行かなくてはならない。
なぜなら、彼女たちは皆、この世に存在していてはいけない女なのだから・・・。